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 結局、侑とは付き合うことになった。話し合いをする余裕は殆どなく、私の返事を待つ前に侑は彼氏のフリをしたのだ。ミホが私達のことを見たのかは不明だが、クラスの一部の女子の間では話題になっている。私と侑が付き合っているのではないかと。

 好奇の視線を受けながら、面倒くさいことになってしまったと思った。ミホとタイキをくっつけるだけなら、二人にだけ付き合っていることを明かしてその他には秘密にしておけばよかった。どうせミホとタイキがくっつくまでの仮の付き合いなのだ。二人が付き合った後別れるとして、別れた理由をあれこれと詮索されるのは面倒くさい。

「おーおー、早速噂になっとんな」

 私は鞄片手に近寄ってきた侑を睨み上げる。

「誰のせいやと思っとんねん」
「付き合うフリするんやからこうした方がええやろ」
「ミホとタイキにだけ言えばよかったやん。何も公開にせんでも」
「いっつも女と付き合う時は見せびらかしまくる俺やで? 秘密にしてたら今度こそ本命やと思われてまうやん」

 私は侑に悪態をついて唇を噛んだ。学校中に人気の侑のことだ。侑は毎度、派手な女子と付き合い隠すことなく公開してきた。本人がそう言ったのだから見せびらかす気もあったのだろう。確かに侑が秘密恋愛をしているところなど想像できない。言葉の節々に私が本命だと思われてたまるかという意思が感じ取れて心の中で舌打ちをした。そこまで嫌な私と付き合うフリをするとは、侑も随分友達想いなものだ。

「侑なんかと付き合ったら私の評判が地にまで落ちるわ」
「何言うとんねん。俺と付き合えるとか一生の名誉やぞ? 自慢しまくれ」
「軽い男に落ちる軽い女だと思われてまう!」

 侑は何かと手が早いことで有名だ。侑と付き合うような女の子は噂好きなので嫌でもそういった情報が入ってくる。私も、侑の手管にのせられた頭の軽い女子として映るのだろうか。というか、侑と付き合うフリをするせいで私は普通に恋愛できなくなる気がする。侑を見上げると、侑は微妙な表情を浮かべてこちらを見下ろしていた。

「……あんな、付き合っとるフリやから実際に手出しはせんで?」
「わかっとるわ! 逆に手出ししてきたら許さへんからな!」
「はいはい。でも手堅くいたら逆にお前を大切にしてると思われるから聞かれたら適当に答えるで」
「は!? そこは彼女大事にする設定でいけや!」
「そんなんいつもの俺ちゃうやん。お前が本命だって思われるとか嫌やし」

 本日二度目の言葉を残して、侑は私に背中を向ける。「ほな」文句も許さないくらい勝手に、侑は部活へと向かった。残された私は一人机で項垂れていた。