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 翌日登校すると、朝練を終えたところらしい侑が教壇で駄弁っていた。無言で通り過ぎようとするが、「おはよ」という侑の圧を受け渋々私も挨拶を返す。

「……おはよう」

 思えば仲良しグループの一員として毎日挨拶はしていたし、仮にも付き合っている今無視するのはおかしいのかもしれない。だが付き合っているという事実が、私の歯車を狂わせる。机へ鞄を下ろすと、ミホが私の元へやってきた。

「おはよ」
「おはよ、ミホ」

 大抵今日の髪型の話や電車の話をするのだが、ミホは何も言わなかった。何か言いたげに体をくねらせている。私が直感で察知した時、ミホの好奇の目が私を捉えた。

「名前と侑、付き合ったん?」

 遂に来てしまった。作戦が成功している証拠のはずなのに、何故か重苦しく感じてしまう。私は引きつった笑顔で「そうやで」と言った。するとミホの目がさらに輝く。

「何で? いつから? 告白はどっちからしたん? 侑のこと好きだったん?」

 同じグループにいたのだから興味が集まるのはわかっていた。わかっていたはずだが、どうにも上手くやり過ごせない。侑とはくだらない話をするだけで、どちらから告白したという設定は決めておかなかった。今更詰めの甘さを悔やむ。どうしたものかと教壇を見ると、教壇にいたはずの侑がいつのまにか私達の所まで来ていた。

「告白は名前からやで?」

 私の胸の中で怒りの炎が燃え盛った。しれっと私が告白したことにしている。確かに侑が私に告白するところは想像できないけれど、その役を何も言わず私に押し付けるのはどうかと思う。

「えー! そうやったん? いつから侑のこと好きやったの? 四人でスポッチャ行った時にはもう好きやった?」
「俺も聞きたいなぁ、それ」

 好奇心の塊とでも言うべきミホに私が困り果てている時、侑も嫌味ったらしい笑顔で便乗してきた。これほど侑を憎たらしく思ったことはない。侑は私と一緒に設定を考える立場のはずだ。しかしミホの手前侑を悪く言うわけにもいかず、私は適当に嘘を並べた。

「いつからっちゅうんはよくわからんけど、スポッチャ行った時にはもう好きやったかなぁ」
「全然気付かへんかった! ごめんなぁ気利かんくて! 一目惚れ?」
「まあ、そうかも」

 一人興奮するミホの横で、侑が得意げな顔をしている。できるならば痴話喧嘩ということにして今すぐ侑を殴りたいと思った。