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 移動教室の際、私は侑と一緒に行くことになった。いつもミホと行っている私が侑と行くことで、侑と一緒に行っているタイキと合流させる意図だ。結果がどうなっているのか確かめることもせず、侑は速足で歩く。その背中を追いかけながら、私は今朝の出来事を思い出した。

「私達、設定決めとかんと。どっかでボロが出てまう」
「お前の一目惚れやろ?」
「それは言わされたんやろが!」

 得意げに私を振り返る侑に声の限り反発する。流れで一目惚れになってしまったが、私は有名人の侑のことを一年の時から知っていたのでかなり長いこと片思いをしていたことになる。まあ侑は顔が整っているので、一目惚れというのが一番自然かもしれないが。性格から侑を好きになるなどありえないというのは胸の内に置いておいて、私は必要事項を整理した。

「いつから付き合ってたとか、何でミホに隠してたとか決めなあかん」

 打ち合わせが必要なのはこれくらいだろうか。先程は私の意思関係なしに決まってしまったため、今度こそ私の合意の元決めたい。侑は私の話など聞いていなさそうな様子で斜め上を見上げた。

「セックスはもうしたことにしてええ?」
「いいわけあるか!」

 思わず侑の肩を叩く。男子がそういう話を好きだというのは知っているけれど、私まで軽い女にされては困る。侑は不満そうな表情で「えー」と言った。

「普段なら、俺もう手出してる頃合いなんやけど」
「ミホとタイキのためとはいえ侑と仮にでも付き合うのホンマ嫌やわ」

 手が早いのは知っていたが、ここまでだったとは。仮の付き合いとはいえ今は私が侑の彼女だということにぞっとする。本当の意味で侑と付き合うことがなくてよかった。侑が私に告白してくることなど、天地がひっくり返ってもないだろうが。

「なんや、お前処女か?」

 まるで弁当の中身を尋ねるかのように聞いてきた男を私は心底軽蔑した目で見た。侑にとってはとうの昔に捨てたものでも、私はいまだに大切に持っているのだ。

「無言は肯定と捉えるで? ふーん、そうやったんか。意外やわ〜。お前の元彼全員、意気地なしなんやな」

 私はもう一度侑の肩を叩く。侑は「ぐえっ」と声を出して黙った。

「遊び人の侑にはわからんやろうな。相手を大切にするっちゅうことが」
「そんなん俺かてわかっとるわ。わかってやってないだけや」
「最悪やないかい」

 目的地の地学室に着き、私達は解散する。後ろでミホとタイキが一緒に来ているかはわからないけれど、お願いだから早くくっついてくれと思った。