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 入ってみると、意外にもラブホテルというのは普通のホテルに近い造りだった。部屋中を見回す私に、侑は上着を投げ捨てながら言う。

「ほんじゃ俺シャワー浴びるから」
「は!? シャワー!? あかんやろ!」

 私は反射的に叫んでいた。事をする前にシャワーを浴びるというのは映画でよく見る話だ。今回はミホとタイキを騙すためセックスをするフリをしているというのに、シャワーを浴びられてはラブホテルに本来の目的で来たみたいになってしまう。慌てる私を侑は呆れたように見下ろした。

「あんな、俺は部活で汗かいとんねん。帰宅部のお前にはわからんかもしれへんけどな」
「あ、そ、そういうこと……」

 無駄に振り回されて疲れた気分だ。侑はバスタオルを持って浴室へと消えた。バスルームが全面鏡張りなどではなくてよかった。私は所在なく部屋中をうろついた後、気を紛らわすためにテレビをつけた。名前だけ薄っすら聞いたことがあるような芸能人が地方を旅する、くだらない番組を流し見る。早く侑にシャワーから出てきてほしいのに、戻ってほしくないと思っている自分がいた。

「出たで」

 ドアの開く音と共に侑の足音が聞こえる。テレビを消してそちらを振り返った瞬間、私は目を剥いた。

「何でバスローブ着てんねん!」
「ええやん、折角あるんやし。シャワー浴びる前のやつ着るの気持ち悪いしな」

 その感覚は理解できる。私も風呂上りは清潔なものを身に着けたいタイプだ。だが、今バスローブ姿になられると、ますます「らしく」なってしまわないだろうか。侑は高校生のくせにバスローブが似合っている。侑はソファを素通りしてベッドに寝転んだ。その姿を凝視しながら、私の脳内に警報が鳴り響くのを感じる。バスローブに、ベッド。セックスをするフリをするはずが、限りなく本物に近付いてきている。侑は私の不安など知る由もなく、「結構ええベッドやん。お前もこっち来いや」などとのたまっていた。

「い、行くわけないやろ」
「はあ? お前意識しとるんか? ホンマ処女って面倒くさいわぁ」

 今、侑は私の地雷に触れた。私は勢いよく立ち上がると、十分な広さのあるベッドの侑のすぐ横に寝転んだ。

「別に寝転ぶくらい何でもないわ」

 これでどうだと侑を見るも、侑は私の方を一度見たきりどこか別の方を向いてしまった。何を話すでもなく、時間だけが過ぎていく。チェックアウトまでこうしているのだろうかと思っていた頃、侑がぽつりと呟いた。

「折角やからやってみるか?」

 何を、と聞く暇もなく侑が私の上に馬乗りになった。今の私は相当間抜けな顔をしていることだろう。侑は無表情で、何を考えているのかわからなかった。

「ちょ、侑」

 侑の手が私の髪や、肌に触れる。侑からはボディーソープのいい匂いがした。人が処女を捨てる時は、必ずしも手順を踏んで行うのではないのかもしれないと思った。

「……やっぱ、やめとくわ」

 え、と私は息だけで言う。侑はベッドを降り、先程脱いだ服を手に取った。見慣れた宮侑が完成していくところを、私はぼうっと眺めていた。今、侑は本気で私としようとしたのだろうか。いっそ、「本気にしたんか?」とからかってくれれば、いつものように侑が私を馬鹿にしているだけだと思えたのに。私の胸の騒めきは、何に分類すればいいのだろう。