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 あれから、玲王くんに凪くんの家、よく行く場所、食べ物の好みなどを教えてもらった。あとは偶然を装って再会し、なんとか付き合いを続けるのみである。

 凪くんがよく来るというハンバーガーショップの相席に腰掛け、凪くんを待つ。凪くんの来る時間、座る位置全てが玲王くんの言った通りだった。私は玲王くんを少し怖い、と思った。それと同時にそんな玲王くんに支援してもらっている私は無敵なのではないかと思った。私は偶然装い、凪くんに声をかける。

「凪くん? 久しぶり」

 凪くんはハンバーガーにかぶりついた後、私へ視線をやった。その後数秒咀嚼するだけの空間が続いたものだから、いたたまれなくなる。たっぷり時間をかけて飲み込んだ後、凪くんは口を開いた。

「誰だっけ」

 がくり、と項垂れそうになる。確かに凪くんの中に私が残っているなんて期待していないけれど、こうも脈なしだと悲しい。

「同じクラスだった……」

 そう言うと、凪くんは「あー、苗字さん」と声に出した。そうそう、と私が心を踊らすのも束の間、凪くんはピクルスを摘んでのける。

「俺のストーカーしてた人ね」
「違うよ!?」

 当時から好きではあったが、断じてストーカーなどではない。というか、既にストーカー認定されているなら偶然を装って再会した今もそう思われているのではないか。後ろに玲王くんがいると思われてはいけない。私は誤魔化すようにピクルスを奪った。

「これ、いらないなら食べてもいい?」
「え? まあ、いいけど……」
「貰うね!」

 正直、私はピクルスが得意ではない。ハンバーガーと一緒ならまだしも、単品ではなかなか厳しい。それでも凪くんのため、と無理をして飲み込んだ。そんな私を凪くんは見ていた。

「変わってるね」
「そうかな?」

 私は口直しがわりにコーラを飲む。凪くんに印象を残せたなら何でもよかった。

「なんか、玲王みたい」

 私のどこが玲王くんと似ているのかはわからないけれど、大事な友達と似ていると言われて悪い気はしない。私は誇らしい気持ちになった。

「俺のお世話焼きたがるの、玲王に似てる」

 私は目を丸くする。別にお世話をしたつもりはないけれど、そう映っていたようだ。私の頭にある妙案が浮かんだ。

「じゃあ私が玲王くんになるよ! 高校の時みたいにさ」

 現在玲王くんは会社が忙しく、あまり凪くんに会えていないと言っていた。そこで私がお世話役を買って出れば、かなり近付けるのではないだろうか。

「苗字さんサッカーできないじゃん」

 私の希望は、呆気なく打ち砕かれた。項垂れる私の上に、声が降ってくる。

「じゃあピクルスだけ食べててよ」

 それが採用通知であることに気付きもしなかった。ぼうっと見上げる私をよそに、凪くんは席を立ってしまう。とりあえず、明日も来ていいのかな。私は漸く自分のハンバーガーを手にした。