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 翌日、私は恐る恐るハンバーガーショップへ行った。昨日の時点で嫌われているなら、既に作戦失敗とも言える。しかし凪くんは特に感情を見せず、「おはよ」と言ったのだった。

「ピクルス。苗字さんの係でしょ」

 凪くんは、ピクルスを抜いてよこす。私はそれを受け取り、とりあえず食べた。ひとまず一緒にいることは認められたらしい。私はお近づきになるべく、話題を探す。

「サッカーは最近どう?」

 凪くんはハンバーガーを食べながら、至って普通に言う。

「ニュース通りだよ」

 これは脈なしなのか、それとも凪くんが元々そっけない人なのかわからない。本来なら退くべきだろうか。でも、一歩踏み出したい、と思った。

「彼女とかいるの?」

 どくん、と血管が脈打つ音がする。ここで「いる」と言われたら、私の計画は全て終わりだ。凪くんは漸くハンバーガーから顔を上げ、呆れたような目で私を見た。

「いたら苗字さんとこんなことしてないんだけど」
「あ、そうだよね……」

 一応男女だと認識してくれているのだと、私は少し安堵した。それと共に、凪くんの言い方がちくりと刺さった。

「凪? あいつは今彼女いねぇぞ」

 玲王くんとの定期連絡でその話をすると、あっけらかんと言われてしまった。できればそういう重要な話は事前に言っておいてほしかった。項垂れる私をよそに、玲王くんは話を進める。

「で、どうなんだよ。凪は攻略できそうか」
「別にご飯食べただけだよ」

 ご飯を食べたと言っても、私が押しかけただけでデートとは程遠い。そもそもファーストフード店だ。玲王くんは「ふうん」と不満げな声を出した。

「いいか、ベッドインしちまえ。それで万事解決だ」
「ええ!?」

 驚く私の声も意に介さず、玲王くんは続ける。どうやら本気のようだ。

「ゴムつけなくていいから、なんて言えば凪もイチコロよ」
「そうかな……」

 滅茶苦茶なことなのに、なぜか玲王くんが言うと真っ当であるように感じる。「それじゃ」と電話は切れ、私は部屋で一人壁を見ていた。凪くんに、本当にその手が効くのだろうか。