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 凪くんとは、ハンバーガーショップで毎日話す仲になった。凪くんにとっては、行きつけの店に毎日私がいて話しかけてくるだけなのかもしれない。それでも関係性は前進しているはずである。最近玲王くんとは滅多に連絡をとっていないが。

「凪くん、今度買い物付き合ってくれない?」

 私は結構な勇気を出して聞いた。つまりはデートだ。私のことを少しでも意識してもらうため、ハンバーガーショップの外に出ようとしているのだ。

「えー。面倒くさい」

 わかってはいたが、凪くんらしいリアクションだ。肩を落とす私に対し、凪くんが言葉を続ける。

「家じゃダメ?」

 私は口の中にあるものを全て吹き出しそうになった。一応私は今デートの話をしているのだ。凪くんにそのつもりがないとはいえ、大胆すぎる。

 あからさまに慌てる私を凪くんは横目で見た。

「要するに苗字さんは俺と会いたいだけでしょ。なら面倒だから家でいい」
「あ、はい……」

 私の考えなど全て筒抜けだったのだ。それで家に誘うというなら、チャンスがあるのではないか? 私は玲王くんの言葉を思い出していた。妊娠すればいい。現実的ではないものの、妊娠に至るまでのフェーズを想像せずにはいられない。

 凪くんは私のスマートフォンを奪うと、自分の連絡先と住所を登録した。

「ん」

 そんな都合のいいように、進んでいいのだろうか。

 などと思っていた数日前の自分に見せてやりたい。今の凪くんの家での光景を。凪くんは散らかった室内で寝転んでゲームをしており、私に構う様子などない。妊娠するような機会はないのである。

「凪くん、いくら何でも散らかりすぎじゃ……」
「気になるなら苗字さんが片付けてよ」

 食事だけは外部できちんととっているのか、キッチンは綺麗だ。私は部屋中を見回し、片っ端からゴミを片していった。凪くんの部屋には空のペットボトルやゲームのパッケージがたくさんある。それらを片付け終わる頃にはもう、外は暗くなっていた。これから営みをする気力もなければ、そんな甘い雰囲気もない。これでは私はただの家政婦ではないか、と思いながら私は部屋のドアに手をかける。

「それじゃあ帰るから……」

 今日で凪くんにその気がないのはよくわかった。なのに「ありがと」の一言でまた火がつけられるなど、私はどうかしている。