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 その後も凪くんは頻繁に私を家に呼んだ。しかし甘い空気が流れることはなく、洗濯物をしてほしい、ゴミ出しをしてほしいという依頼が続いた。要は私を家政婦だと思っているのだ。ここで怒って出ていけない自分が恨めしい。家政婦としても、凪くんと関われて嬉しいと思っているのだ。もし、凪くんのお願いを断ったら、凪くんは二度と私を部屋に呼ばなくなってしまう。なんとなく、そんな予感がしていた。

 今日は凪くんに部屋の片付けを頼まれていた。下着やら何やらが転がっているのを見ると、異性とすら思われていないのではないかと思う。私は未使用らしい下着を丁寧に畳み、クローゼットにしまう。

「ねえ」

 ゲームをしていたはずの凪くんが、こちらに顔を向けていた。ゲーム機にはクリアの文言が出ている。

「何で俺の言うこと聞くの? 苗字さん俺のことが好きなんだよね。苗字さんのエゴはないの?」

 なかなか難しい質問だ。私は手を止めて考えた。私のエゴとは凪くんと付き合いたいというものだ。最短距離を考えるなら、玲王くんの言う通り押し倒した方がいいのだろう。それをしないのは、凪くんのプライベートな時間を邪魔したくないからだ。それ以前に、もっと。

「こうやってアピールしてれば凪くんが絆されるかもしれないじゃん!」

 ゴミ袋と服の山の中で叫んだ私に、凪くんは何度か目を瞬いた。そしてゲーム機を置いて、額に手をやった。

「エゴがあるのはいいけど、実現方法が他力本願だよね」

 これは悪い方に転んだか。私の体に緊張が走る。凪くんは悪戯な顔を浮かべ、「じゃあさ」と言った。

「俺にアピール続けてよ。いつか俺が振り向くかもしれないから」

 私は言葉を失った後、なんとか捻り出す。

「それただ家政婦欲しいだけじゃない!?」
「協力してやってるんだけどなぁ」

 またゲームに戻ってしまった凪くんの背中を揺する。そういえば、凪くんに触れるのは初めてかもしれない。大人とは随分とよそよそしいものだ。