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 普通、エゴ丸出しの人間は嫌われると思っていた。しかし凪くんは例外のようで、エゴを出した私により距離を詰めている、気がする。例えば掃除を終えた時、「ありがと」とマスクを外して言う姿であったり、私が作った軽食を「美味しい」と言う姿であったり。凪くんは私を家政婦以外の何かとして認めてくれている気がする。それが何なのかは、わからないけれど。

「今日は外出ようよ」

 凪くんに言われた時、私はそれがどういう意味かわからなかった。外食を好むのは凪くんらしいが、あまり外食の頻度を増やしてもいけないはずだ。何か欲しいものがあるのでは、と思ってついていけば、凪くんはただ私を連れて散歩しているような様子である。

「あの、凪くんこうやって外出るの好きなの?」

 向かい風に負けじと叫ぶと、小さな音で「別に」と声がする。

「苗字さんはこっちの方が好きでしょ」

 私は驚いて凪くんを見た。凪くんは、合わせてくれていたのだ。私のために。

 勿論デートをしたいという思いはある。けれど、私の目的――凪くんとベッドインすることを考えれば、家の方がより良いと言えた。

「うん、好きだけど」

 そう言った私の両頬を凪くんがつまむ。

「生意気」

 デートに連れて行ってやっている、と言わんばかりの態度がなんとも凪くんらしかった。そういえば、変装もせずに歩いて大丈夫なのだろうか。こうしているところを撮られたらスキャンダルになってしまう。と思うくらい、私達は今イチャついている。

「凪くん、マスコミとかって」
「興味ない」

 その一言で会話を終えられ、改めて凪くんは変わっていると感じる。仮に凪くんに不都合なスキャンダルが出たところで、玲王くんがお金の力で解決してしまうのだろう。凪くんや玲王くんは私とのスキャンダルが出たら嫌だと思うのだろうか。確かめたくて、凪くんと腕を組んだ。カメラがなくても、凪くんは嫌だと言いそうだ。

 凪くんは驚いたように私を見たが、何も言わずに腕を貸していた。想定と違う。段々私の方が照れてくる。私は、凪くんの熱愛相手になってもよくて、かつ恋人らしいことをしてもいいのか。それは限りなく、脈ありと言うのでは。

 頭がオーバーヒートして腕を解こうとすると、凪くんがひったくるように私の手を掴んだ。そうして手を繋いでいたけれど、私は緊張しすぎて何も覚えていなかった。