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 自分が女相手に恋愛のようなことをしている動揺が、ときめきのようになっていった。冴への競合心が、嫉妬のようになった。それはまだ「恋愛のように感じる」というだけで、恋愛をしているわけではないのかもしれない。でも、恋であったらいいと思う。そう考えている時点で、俺は結構、名前を好きなのかもしれない。

 俺は名前の目の前に立って、考え込んでいた。名前は沈黙を苦としないようで、先程から大人しく電車の椅子に揺られている。もう俺の最寄駅に着く。電車のブレーキが擦れる音がして、ドアが開く。名前は降りないのか、とでも言いたげな顔で俺を見上げた。

「自分でも合ってるかどうかまだわからねぇけど、これが恋愛なら俺はお前が好きなんだと思う」

 あまりにも唐突すぎる、と自分でも思う。恋愛めいた雰囲気はなかったし、会話すらなかったのだ。だが俺は今伝えたかった。なのに本当に伝えるだけでは飽き足らず、名前を求めてしまった。

「付き合ってくれ」

 そう伝えると、名前は目を丸くして口を開いた。次の瞬間、溢れるようにして涙がこぼれた。背後ではドアが閉まる音がしていた。このまま異世界にでも飛んでいきそうな列車だった。俺はどうしたらいいのかわからなくなる。それほど俺の告白が嫌だったのか。その割には、電話などで普通に話してくれた気がする。なんだろう、この違和感は。俺の知らないところで何か大きなものが動いているような。

「悪い」

 俺が謝ると、名前は涙を拭いながら顔を上げた。

「違う、嬉しいの」

 とは言いつつも、とても嬉し泣きには見えなかった。何か辛いことでもあるのだろうか。喜んでいいのか、悪いのか、わからなくなってくる。名前は決意のともった瞳で俺を見上げた。

「いいよ。私が凛くんを幸せにするから」

 女ながらに、随分肝の据わった奴だ。俺は小さく頷き、次の駅で降りる準備をした。今になって、告白が成功した嬉しさが込み上げてきた。