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 付き合ったら何をするか。特に捻りのある答えが思い浮かばない俺は、名前を江ノ島へ誘った。名前は素直に頷いた。夏らしいワンピースとサンダル姿の名前は新鮮だ。そういえば、俺達は制服でしか会ったことがなかった。

「普段電車でしか会わないから、変な感じ」

 海へと歩を進めながら名前が呟いた。そんなわけないのに、俺は名前がこのまま海に入って消えてしまうのではないかと危惧した。

「凛くん、飛行機は好き?」

 唐突に振り向かれ、俺は言葉を失う。突然現実に戻ってきたかのような感覚だ。俺は目を瞬いた後、なんとか平静を取り戻した。

「は? 何でいきなり飛行機なんだよ」
「うーん、いつか凛くんも飛行機に乗ってどこかへ行っちゃうのかと思って」

 名前は寂しがるように言った。それは俺が将来、冴のようにサッカーで海外へ行くことを指しているのだろうか。やはり名前は冴を好きで、冴の影を追い求めているのではないかという気がする。しかし名前が今付き合っているのは俺だし、言葉通り受け取れば俺と離れるのを嫌がっているのだろう。

「別にわかんねぇだろ」

 俺が言うと、名前は「そうだね」と笑った。海を背にして笑う姿に目が眩んだ。まるで別世界にトリップしたかのような気分だった。背後に輝く太陽が名前の輪郭を溶かして、吸い込んでしまいそうだった。俺は思わず息を呑んで、海から離れる。そんなに名前に惚れているなんて想定外だった。誤魔化すように近くにあったアイスクリーム屋へ寄り、小銭を差し出す。

「ほら。お前抹茶好きって言ってただろ」

 抹茶のソフトクリームをやれば、名前は驚いたような瞳でそれを受け取った。

「好きになっちゃうじゃん……」
「好きで付き合ってんだろうが」

 そういえば、俺が付き合ってほしいと言ったのみで名前から好きだとは聞いたことがなかった。でも名前の態度を見るに、彼女も俺のことが好きだと思う。大丈夫だよな? と、自分に問いかけた。名前と出会った時からある、この違和感は何なのだろう。