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「お前は俺を好きなんだろうな? あ?」

 俺はかき氷を頼んだ。二人で並んで腰掛けながら、俺は凄みを利かせる。名前が俺のことを好きではなかったら、俺は結構ショックだ。でも、好きだと言わせるまでつきまとうと思う。

「うん、好きだってば。ていうか凛くんこそそんなに私のこと好きだったんだ」

 名前はソフトクリームを食べながら、意外そうに言った。初めて言われた「好き」よりも、俺は後半の言葉にばかり気を取られた。

「一時の衝動かと思ってた」
「別にそんなことは……」

 ない、と言いたいのに、強く否定できない。そういえば、どうして俺は名前を好きになったのだろう? 運命とか、直感とか、そういった曖昧なことばかり思いつく。考え込む俺に、名前が身を乗り出した。

「凛くんのこともっと教えて」

 その愛くるしさに胸を打たれながら、俺は粛々と話す。俺のサッカー人生。できるだけ冗長にならないようにしたが、それでも冴の話が出てしまうのは仕方ない。名前もそこが気になるようで、冴のことをしきりに尋ねた。何故そこまで冴にこだわるのだろうか。冴目当てで付き合ったのだろうか? 俺の頭に不穏な疑問が浮かぶが、本人が海外にいるのに俺と付き合ってもどうしようもないことに気付く。多分、考えすぎだ。

「凛くんが冴くんとサッカーすることはもうないの?」

 その一言に、俺の胸の炎が揺らぐ。

「あいつが俺のサッカー人生を何もかも滅茶苦茶にしたんだ」

 俺は冴への執念をその一言に滲ませて、食べ終わったかき氷のカップを捨てた。名前ももうアイスクリームを食べ終わっていた。

「凛くん、ごめんね」

 時折名前は俺に対し申し訳なさそうな顔をしていた。それが何故であるのか、俺はわからない。しかし俺達は何もかもを理解し合えるわけではない。冴への気持ちを全て言葉にできないように。

 帰り道、俺は夢を見ていた。電車で揺られる俺と、俺の肩に頭を預けて眠る名前。夢だと気付いたのは、名前の髪の長さが違うからだ。名前は眠ったまま、俺も名前を起こさないまま、電車は山の中まで行ってしまう。謝る名前を適当に流してホームに降りた瞬間、スマートフォンが鳴る。不吉な音をした着信音だった。

 そこで俺は目を覚ました。今は江ノ島からの帰りの電車だった。名前は起きていて、電車は海沿いを走っている。夢というにはあまりにも現実味のある、仄暗い恐ろしさを孕んだ夢だった。