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 岩鳶と連携しようというのは、文化祭や球技大会に限った話ではない。部活動の面でも支え合える面は支え合って行こうと、協定を結んでいる。そのため岩鳶とうちの高校は練習試合を組むことが多いし、学校を超えて仲の良い者も多い。私と遙はその内に入るだろうか、と考えていたところで、生徒会室の沈黙が破られた。岩鳶の生徒会長、川口だった。

「今度新設の部活承認しないといけなくて」

 川口は流石生徒会長と言うべきか、知識が広く、達観している女子生徒だ。学年は私の一個上にあたり、今年の秋で任期を終える。そうなる前になんとか生徒会としての実績を残しておこう、というのが目下の目標だ。

「何部ですか?」

 私は考えなしに言った。生徒会や勉強に忙しくて実感があまりないが、もう私達は高校二年になったのだ。何とも平凡な日々を過ごしているけれど、実はそういった毎日が青春なのかもしれない。

「水泳部。何でも元スクールで優勝した人達がいるらしいんだよね」

 私の体に動揺が走った。岩鳶にいる、元スイミングスクールの生徒。それは遙達のことなのではないか。

 別に遙が水泳部を始めたところで私には関係ない話だけれど、どうしても考えてしまう。水泳部独自のコネクションで、私の噂を聞いてしまうのではないかと。

「そういえばミョウジさんも……」

 私の高校から書記として一緒にやってきた後輩がこちらを向いた。ミョウジさんも水泳をやっていたんですよね。そう言いたいのだろう。私の高校では既に私の噂が知れ渡っている。

「おい」

 私の先輩にあたる生徒会長がたしなめると、後輩は我に返ったように口元に手を当てていた。生徒会室に気まずい空気が流れる。ここにいる誰も悪くないことを知っている。

「いいじゃないですか。水泳部。遙達ならきっといい所まで行きます」

 その場の空気を引き裂くように、私はわざと明るい声を出した。空元気と思われたとしてもいい。川口は私の噂を知ってか知らずか、細めた目で私を見た。

「プールもろくに整備されてないから、どうだろうね」
「遙なら全国まで行けます」

 水泳部を立ち上げるのは遙だということを否定しない。どうやら間違いないようだ。川口は感心するような目を私に向けた。

「余程信頼してるんだね」
「遙は、私に泳ぎを教えてくれた人だから」

 たとえその泳ぎを、奪われたとしても。

 生徒会室は再び静まり返り、ペンが走る音だけが響いた。全員がそうあるべきという思いの元、私と後輩のやり取りを忘れようとしていた。