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そういえば夏油は、離反する時に両親を殺していたことを思い出した。夏油からあまり両親の話は聞かなかったし、仲が悪かったのかもしれない。両親との不仲が原因で両親を殺し、戻れなくなって呪詛師になった可能性もあるだろう。
「夏油、両親は元気?」
寮の談話室にて、私は夏油に話しかけた。夏油は読んでいた本から顔を上げ、静かに答える。
「ああ、元気だよ。どうしてだい?」
「両親と仲良いのかなーって」
一同に沈黙が訪れた。私と夏油だけではない。その場にいた硝子と五条もだ。入学してからかなり時間は経っているが、突然両親の話などおかしかったか。そう思っていた時、五条がサングラスをずらして目を細めた。
「オマエ外堀固めようとしてるだろ。傑に気があるのがバレバレなんだよ」
高専内の世界は狭い。私が夏油を狙っていると思われるのも心外だし、狭いコミュニティの中で恋愛に浮かれて場を乱すような女だと思われたくなかった。
「そんなんじゃないし! 夏油が親と仲良いか気になっただけじゃん!」
「何でだよ」
「それは言えない」
まさか夏油が離反した世界線からタイムスリップをして夏油を止めに来ました、なんていくら五条でも話せそうにない。もし五条に話そうものなら、必死になって夏油を止めるだろう。それくらい二人の仲は出来上がっていたし、二人揃って最強だった。
「やっぱりこいつ傑狙いのミーハーだぜ」
五条は私を親指でさして舌を大げさに出してみせた。気持ち悪い、と言われているようだ。私は反論するすべを持たない。だけど決して、夏油に浮かれているそこらの女と一緒にされたくはなかった。
「そういえば実家に仕送りをしようと思っていたところなんだ。思い出させてくれてありがとう」
場をとりなすように、夏油が読んでいた本を閉じた。五条が反応して顔を上げる。
「仕送り? よくやるな」
「任務でお金が入ったからね」
この会話を聞くに、夏油の親子仲は悪くないのかもしれない。あの事件で他に報告があったのは、子供が痛めつけられていてそれに腹を立てた夏油が村人を皆殺しにしたということだ。
「夏油って子供好き?」
子供が痛めつけられていたのがそれほど許せなかったのなら、夏油は子供に対する情が厚いのかもしれない。私が言うと、今度は硝子まで目を丸くした。
「やっぱりコイツ傑と結婚する気だ! ミーハーどころか重すぎるぞ」
騒ぐ五条をたしなめながら、夏油は私に向かって言葉を選ぶように語りかける。
「子供は人並みに好きだよ。それと君は、異性にあまりそういう質問をしない方がいいんじゃないかな」
「以後気をつけます……」
恥ずかしさで小さくなりながら私は視線をそらす。夏油の離反した理由を探すのは、今日も失敗だ。