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夏油が最近落ち込んでいる。もっと正確に言えば、離反する直前の雰囲気に近付いてきている。私がタイムスリップして得られた情報はと言えば、呪霊を飲み込むのが私達の思っているより遥かに辛そうだということだった。
「夏油が呪霊操術を使わなくてもよくするよ」
中庭で一人佇んでいた夏油の前に躍り出る。夏油は相変わらず覇気のない様子で、私のことをぼんやりと見つめた。
「それは……悟に全部任せるということ?」
「違う! 私が頑張るの!」
ここで何故五条の名前が出てくるのだろう。そういえば、最近夏油は五条と自分がセットであるようなことを言わなくなっていた。私はそのことに気付いていたけれど、夏油が離反することと直接結びついてはいなかった。
「調べてみたら私の家系、呪霊操術に近い術式を使ってる人がいたんだよね。だから夏油が呪霊を飲み込まなくてもいいようにしてあげる」
要するに、私がもっと強くなればいい話なのだ。そうすれば離反する夏油を力ずくで止められるかもしれない。私はもう、夏油が離反に近付いていることを認めつつあった。
「ありがとう。でも、必要なのは私のスペアではなくて悟のスペアだ」
夏油はふっと笑い、空中を見つめる。
「悟がいれば全て解決なんだから」
その切ない表情に、私はなんと声をかけるべきかわからなかった。
「私は夏油のことをもっと知りたいのにな」
数日後の教室にて、誰もいないと知って呟けば背後から突然気配を出される。
「なら直接聞けばいい」
「わっ!」
振り返れば、普段よりいくらか顔色のいい夏油がいた。この数日任務がなかったし、周りの呪術師が怪我を負った報せもなかったから気が楽だったのかもしれない。
「触れればわかることもあるだろう」
夏油は手のひらを差し出した。私は手のひらを出し、垂直に手を合わせる。もうすぐ夏油がいなくなってしまうのだと思うと切なくなった。こんな束の間の平和が妙に思えてきてしまう。
「夏油はさ、私のこと弱いと思ってるでしょ」
「ああ。弱いから守りたいと思ってる」
夏油は弱い人全員を守りたいと思っているのか。それを聞く勇気はなかったし、本題からずれていると思った。弱いから誰かを守るならば、強い人は誰に守られればいいのだろう。
「私は夏油のことも守りたいよ」
私が言うと、夏油がはっと目を瞠る気配がした。
「夏油は私よりずっと強いけど、強い人を守らなくていいなんて誰が決めたの」
合わせている手が、小さく震えている気がする。もしかしたら、夏油の本音を聞き出せるかもしれない。私がそっと夏油を見上げた時、教室の扉が大きく開かれた。
「大変だ!灰原が」