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少女の依頼を受けた日から、南雲は少女の家に泊まり込んだ。最近まで家族か使用人でもいたのか、人が暮らす用意はできている。少女の家は屋敷と言っていい様相で、人が一人増えてもまだ寂し気だった。少女は家族に捨てられでもしたのだろうか。南雲は考えを巡らせるが、仮にそうだったとしても肩入れするわけではない。標的に深入りしたところでいいことはないのだ。
少女は朝から現れた南雲を見て、訝し気に眉を寄せた。
「何故いるのですか?」
「君を殺すXデーは決まってる。つまりそれまで君を護衛する必要があるんだよね」
南雲はピースサインをしてみせる。軽薄だと言われる南雲だが実力は相当だ。侵入者でもいれば、少女は南雲に感謝するだろう。それとも、侵入者に殺してくださいと頼むのだろうか。正式に依頼した南雲を差し置いて。
南雲が考えを巡らせていると、少女が「何からですか?」と言った。南雲は目を瞬く。確かに見渡す限り緑あふれるこの地帯は平和としか言いようがない。この家に来た時も施錠されている気配はなかった。
「そりゃあ……鳥とか?」
少女はおかしそうに笑った。
「ふふ……では餌をやってくれますか」
「君が飼ってたんだ」
鳥の餌があるだろう場所を少女は指さす。南雲が軽くつまんで窓枠に置くと、小鳥が何匹か集まってきた。
「最近は餌もあげられていません」
鳥の勢いがすごいのはそのせいか。察すると共に、少女の痩せた体を見る。
「君自体の餌は?」
少し回りくどかっただろうか。少女は不思議そうな顔をしている。
「君はご飯食べてるのって話」
「最近は流動食しか食べられなくて……私はいいんです」
南雲は鳥の餌を置き、ドアへ向かって歩いた。確かキッチンにそれらしいものがあったはずだ。
「流動食ね、今用意するよ」
「いいんですか?」
少女が体を起こそうとする。南雲はそれを片手で制し、笑顔を作った。
「言ったでしょ? 殺すまでに死なれたら困るって」
南雲の仕事はXデーに少女を殺すこと。ならば、それまでに少女を死なせてはいけないのだ。
南雲は少女の言った通り流動食を温め、少女にスプーンで食べさせた。人肌くらいに温めるとか、少しずつ与えるとか、まるで子育てをしているみたいだ。殺しの正反対をしている。まるで生き物を生かすために育てているみたいだ。現実に待ち構えているのは、死なのだけど。
殺すより育てる方が難しいな、と南雲は思った。