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最近あまり人数の集まることがなかった玉狛だが、今日は久々に大所帯だ。というのも玉狛第二のみんなが入ってくれたのが大きいだろう。今までは全員が揃っても大所帯という言葉を使うには値しなかったが、この中学生三人や新しく増えた捕虜のおかげでテーブルはすっかり賑やかになっていた。今日は防衛任務のレイジと本部に行っている迅を除いただけでもこの人口密度である。これには夕飯の作りがいがあるというものだ。

作ったチャーハンとカニ玉をテーブルまで運ぶと、テーブルからは歓喜の声が上がった。自分が作ったものを喜んでくれるのは素直に嬉しい。あとは冷凍のシュウマイだけれどそこを咎める人は別にいないだろう。

「いただきます」

私は手を合わせるとみんなに続いて夕食を食べ出した。みんなはあまり作らないカニ玉に夢中だが、私は冷凍の味が気になって真っ先にシュウマイへ箸を伸ばしてしまう。その前に、醤油を取るのを忘れていた。

テーブルの端の醤油へ手を伸ばした時、ほぼ同時にそれを掴んでいた誰かの手に触れた。

「あ、ごめ……」

そう言いかけて、その人物の顔を見た私はもう一度「あ」と言った。それからそろりそろりと手を元に戻し、心臓を高鳴らせながらチャーハンを口にした。今はシュウマイなどどうでもいい。久々のヒュースとの接触に、それどころではないのだから。

あれ以来私とヒュースはまともに顔を合わせていなかった。会ったとしても玉狛のみんながいる時で、まるでそこに誰もいないかのように振舞っている。勿論体のどこかが触れるだなんてことはない。自然とこの間のキスを思い出して私は触れた指先と唇が熱を持つのを感じた。


その名前の様子を一人、訝しげに見る人物がいた。小南である。

「ねえ、あんたらおかしくない?」

小南の声に名前は振り向いた。名指しされずとも自分が今挙動不審だという自覚はあったのだ。考えてみればあまりにもわかりやすい態度を取ってしまったと思ったが、まさか小南にまで怪しまれてしまうほどあからさまだったのだろうか。ただでさえいっぱいいっぱいの頭に新たな問題が浮上する。

「別におかしくなどない」
「ほら、そうやって言い返すってことは自覚あるんじゃない」

小南の言い分もごもっともである。ヒュースが玉狛支部のメンバーに反論することは珍しくないが、名前を出されていないのに即座に言い返すのは意外だった。しかし考えてみれば今回おかしかったのは名前のみでヒュースは至っていつも通りである。自分だけが意識しているようで名前は恥ずかしくなった。

「ガロプラの時も名前は支部にいたし、あんた達まさか共謀してんじゃないでしょうね」
「それはない」
「それはないよ」

小南の言葉にヒュースと名前の声が重なる。ここで共謀という可能性に至ってしまうのが小南の鋭いようで鈍いところだ。
そんな小南に、烏丸が「まあまあ」と語りかけた。

「この二人はいわゆる思春期なんですよ」
「そんなわけないだろう!」
「違うよ!」

冗談で言ったそれにまさかこんな反応が返ってくるとは思わなかった。しかも本人達は至って真剣な様子だ。これは本当に、何かあるのかもしれない。烏丸は面食らいながら名前に「わかってますよ」と返した。