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「これは美味いわ、けどこれは微妙」

現在私は市丸ギンと向かい合い、自分で作った弁当の品評を聞かされているといった状況だった。本来藍染隊長と楽しく過ごしているはずが何故こうなってしまったのか。思い出すのは癪だからやめておく。

「ありがと、文句つけるなら食べないでくれる」

私は自分の分を口に運びながら言った。もう市丸ギンには敬語すら使っていない。許されたのは呼び捨てだけであるが、今は周りに人もいないし、ギンも何も言ってこないのでいいのだろう。

「嘘嘘、ホントはうまいて」

ギンが言うと嘘なのか本当なのかよくわからない。目を細めてギンを見ると、「何?」と言われた。そこで思い当たることが一つある。

「さっきの、私が弁当作ってきたから一緒に食べよってやつ、藍染隊長には私がギンのために作ってきたと思われてるんじゃない……?」

そう、問題はそこなのだ。ギンがあの状況を察して取り繕ってくれたのには感謝している。決して本人には言わないが。しかしあの言い方だと、まるで私が最初からギンのために弁当を作ってきたみたいだ。

「それが何かあかんの?」

平然としているギンはわざとなのだろうか。私には全くわからない。今回のことがからかわれていないにせよ市丸ギンには今まで散々妨害されてきたのだ。最初の教官室の件から始まり、この間は「二人きりの時しか呼んだらあかん」とまで言われた。それに今回の弁当だ。

「ギンなんて嫌い」

私がウインナーを掴みながら呟くと、ギンは珍しく箸を止めた。

「キライとか言うなや」

細い糸目だというのに、その瞳がこちらを見ているのがはっきりとわかる。何故市丸ギンはいきなりこんな雰囲気を醸し出すのだろう。気圧されながらも私は「な、何よ」と言った。

「じゃあ何で私の邪魔ばっかりするの」
「今回は助けたやろ」
「今回はね! 助けた半分、余計な誤解半分かな」

そう言うとギンは「厳しいなぁ」と言ってようやく笑った。ただの悪戯小僧だと思っていたが、私と藍染隊長を邪魔する明確な理由でもあるのだろうか。少し期待してギンを見ると、ギンは愉しそうな笑みを浮かべた。

「名前ちゃんの邪魔すんのなんて、名前ちゃんが面白いからに決まっとるやん」
「やっぱりアンタって最低!」

やはりギンはギンでしかなかったようだ。面白いから人の恋路を邪魔するだなんてどうかしている。そんな奴は自分の恋愛も失敗するに決まっているのだ。ギンにそう伝えると、「そうかもな」と平然としていた。ギンに恋愛事はあまり想像つかないが、人間なのだから多少なりともあるだろう。というか、今でも女性隊士に密かに人気なのを知っている。だけれどもギンが本気の恋をしたその時、失敗する覚悟がギンには既にあるということなのだろうか。

そこまで考えて、何を考えているのだろうと頭を振った。ギンの恋愛事情など想像したくもないし私が立ち入る所ではない。それよりも今後藍染隊長とどうするかだ。食べ終えた弁当の蓋を閉め、「それ、洗って返しなさいよ」と言ってから私は食堂を出た。