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仮入隊も気付けば終わりが近付いていた。あれからやる事は鍛錬、鍛錬と変わらないが少しは死神としての任務にも触れさせてもらえるようになった。勿論私達霊術院生は未熟もいいところだが、そこは五番隊の隊士が上手く補助してくれた。私のサポートに当たったのは五番隊に来て三年目だという若い隊士で、それでもその慣れた手つきに感動したのを覚えている。ふと辺りを見るとギンも別の霊術院生のサポートに回っていたので、ギンも仕事するんだなんて当たり前のことを思っていた。霊術院生の私と護廷十三隊のギンが仕事外でしか会わないのは当然だが、それにしてもあまり仕事をしなさそうな印象を受けるのは何故だろう。

考えるのはやめにして、私はそっと藍染隊長を盗み見た。藍染隊長は任務も鍛錬も誰のサポートにも回らず全体を見ている。少しは藍染隊長に見てもらいたい、なんて思う自分は卒業した。

そう、この仮入隊の間に私は無事藍染隊長にマンツーマンで剣の指導をしてもらったのである。それは私以外稽古場にはもう誰もいなかったことと、偶然藍染隊長に予定がなかったことが重なった奇跡のようなものだろう。「稽古を見てもらえませんか」そう頭を下げた私に、藍染隊長はいつもの穏やかな声で「少しなら」と言った。思わず顔を上げた私は間抜け面を藍染隊長に晒していたことだろう。自分で言いながら驚いている私に少し笑って、藍染隊長は稽古場へと足を踏み入れた。それから数十分の間であったが、私は藍染隊長と二人で剣の稽古をした。

浮かれていられないのはわかっているが、少しくらいは許してほしい。藍染隊長に恋をしてからというものの、ギンに邪魔ばかりされてきた。最初は恥をかき、誤解され、藍染隊長の多忙さで噛み合わないことばかり。それが念願の剣の稽古までできたのだ。もうこれ以上望むことはないだろう。
幸せの余韻に浸る私の頭に、ポンと何かが置かれた。

「名前ちゃん」
「わっ!?」

突然背後に立っていたギンに私は思わず慌てふためく。すると頭上から落ちたそれをギンは見事にキャッチしてみせた。

「動いたら落ちるやろ」

そう言われても、私はジェンガや積み木ではない。

「何の用?」

今は全ての行程を終えた言わば自由時間だ。仮入隊の中でもギンと二人になる時はあまりなかったし、こうしてわざわざギンが会いに来ることなどない。生意気な少年とはいえ自分が仮入隊している隊の副隊長だ。胸の奥に少し緊張を感じながらギンと言葉を待つと、ギンは今しがたキャッチしたばかりの箱を差し出した。

「これ。約束通り洗ってきたで」

それは藍染隊長に食べてもらうはずだった、でも食べてもらえなかった料理を入れていた弁当箱だった。「ちゃんと洗って返してよね」と言ったのを覚えていたのだろう。意外に律儀な奴だ。

「ありがと」
「藍染隊長も興味持ってたで。苗字君のお弁当はどうやったかなて」
「本当!?」

私は目を輝かせる。やはり藍染隊長はギンの言いぶりに騙されず本当は自分のために作られたと見抜いていたのだろうか。流石は藍染隊長だ。

「まあ嘘やけど」
「アンタいい加減にしなさいよ!?」

私は半分本気、半分建前で怒った。またからかわれたのは腹立つがこんなもの今までギンにされたことに比べれば可愛いものだ。それに、藍染隊長のことで嘘をつくのが私とギンのコミュニケーションになりつつある。実際からかわれた数度しか会話をしたことがないのだけれど、何故だか馴染んでいるから不思議だ。ギンはケタケタと笑っていた。

「やっぱ名前ちゃん好きやわ」
「それはどうも」

他の霊術院生なら人気のあるギンに「好き」など言われれば途端に甘い声を出すのだろうが、私の場合はからかう対象としてなのがわかりきっている。言わばおもちゃとしてだ。

「そういえばな」

そう口を開いたギンに、私は目を丸くすることになる。

「藍染隊長が名前ちゃんの弁当に興味持ってたっちゅうのは嘘やけど、ボクからは言っといたで。名前ちゃんの弁当美味しかったってな」