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これは美味しいけどこれは不味いとか言っていたくせに、藍染隊長には美味しいと言ってくれたのか。不味いものもあったけど総評としては美味しかったのか。もはや弁当の味などどうでもいい。藍染隊長の耳に私の弁当が美味しかったと入る、それだけで私は満ち足りていた。それで「僕にも作ってくれないか」と言うほど図々しい人ではないけれど、藍染隊長に私が刷り込めれば結果上々だ。

わけもなく家の中を歩き回ると、ギンから返されたばかりの弁当箱が目に入る。藍染隊長に使ってもらうためにわざわざ買ってきた落ち着いた配色の箱。それを見てふと頭に過ったのは、いつも食堂で昼食を購入しているギンの顔だった。仮入隊は明日で最後である。今までされたことを思えば少し手助けしてもらったくらいでは足りないくらいなのだが、ギンにお礼をしてもいいのではないかとふと思った。

気付けば私は台所に立ち、明日の弁当を作り始めていた。別にいつも自分用にやっていることだ。今回は藍染隊長の時のように特別なものは作らないし、気合いを入れる必要もない。ただ二人分の量を作って、私は半分をその弁当箱へ詰めた。どうして自分はこんなことをしているんだと思いながら。



仮入隊最終日、五番隊の空気はどこか引き締まって見えた。私としては明日から藍染隊長と会えないという寂しさでいっぱいなのだけれど、そんなことは関係なく刀を振る。初日は根を上げそうになった稽古もいつのまにか慣れてしまったようだ。仮入隊が終わってからの自主練も以前より厳しくすることにしよう。

そんなことを考えていればやめの声が掛かった。最終日は半日で終わりなので、これにて私達の仮入隊は終了だ。各々が様々な感慨を抱きながら藍染隊長の話を聞いた。やはり藍染隊長の話は上手く、聞いている人を引き込む力がある。

藍染隊長の有難いお話が終わると霊術院生は散り散りになった。大方これから世話になった五番隊隊士に挨拶をしたり、ついでに食堂で昼ご飯を食べて行くのだろう。本当ならば私は藍染隊長の元へ走って行きたいところだ。が、今日の私が作ったのは藍染隊長のための弁当ではない。

「ギ……市丸副隊長!」

ちょうど稽古場を出ようとしていたギンを引き止めると、彼は顔だけこちらを向いた。

「何? ボク今からご飯やねんけど」
「あの……」

らしくもなく緊張する。相手は藍染隊長ではなくギンだ。わかっているのに、何故か口がうまく動かない。

「これから少しお時間いいですか?」

意を決してそう言うと、ギンは「ええよ」と笑ったのだった。