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「で、どこ行くん?」
現在私は後ろにギンを従えて五番隊の敷地内を歩いている。というか歩きすぎて、五番隊の敷地をもう出そうなほどだ。こうなったのもギンのせいである。いつも癪なギンに今日は礼をするのだと思ったら何故か落ち着かず、ただ人目につかない場所へ行けばいいはずが遠くへ遠くへと来てしまったのだった。流石に不思議に思ったのか声を掛けたギンに、私は目に入った丘を指差す。
「あそこでご飯食べる」
「いやキミはそうかもしれへんけど、ボクは何で連れられて来てるん」
そうだ、今のは言い方が悪かった。といってもギンは全て察していてわざと言わせようとしているのかもしれないけれど、どちらにしろ言わなくてはならないことだ。
「この間のお礼にまたお弁当作ってきたから……あげる」
私が前を向いたまま必死でそう言うと、振り向かないでもギンが笑うのがわかった。
「名前ちゃんがボクにお弁当! そりゃ嬉しいなあ。しかも丘でピクニックやて」
素直な喜びの言葉がむず痒い。今まで散々からかってきたギンだからだろうか。ピクニックに関しては完全な偶然なのだが、結果としてそうなってしまっている。
ご機嫌なギンを従えて丘の頂上まで辿り着くと、芝生に腰を下ろして弁当を渡した。
「ええモン入っとるやん」
てっきりまた不味いだの彩りが悪いだのと言われるだろうと思っていた私は拍子抜けしてしまう。私の邪魔をして貶すのがギンのくせに、今日はやけにご機嫌だ。ああ、お弁当を作ってきてあげたからだろうか。
私も全く同じ中身の弁当を開けると二人で並んでお弁当を食べた。太陽の光は温かく、空を流れる雲の動きは穏やかで、これではまるでギンの言う通りピクニックに来たみたいだ。
私がぼんやりそんなことを考えていた時、先に食べ終わったらしいギンが「あ」と声を上げた。
「弁当箱どないしよ。洗って返すけど、明日からはもうキミおらんやろ」
そう、仮入隊は今日で終わりだ。今までは毎日のように顔を付き合わせていたが、明日からはどちらかが霊術院か五番隊に赴かなくてはいけなくなる。
「どうする?」
そう言いながら弁当箱の蓋を閉めるギンに、私は少し考えた後口を開いた。
「いつでもいいから、呼んでくれたら五番隊まで私が取りに行く」
「ボクが霊術院行くと騒ぎになってまうからな」
得意げに語るギンは憎いが女子に人気がある。そうでなくても副隊長が霊術院に来てはこの間のような騒ぎになってしまうし、二回もそんなことがあればギンと私の関係性も疑われるだろう。
それよりも、私は藍染隊長に会うチャンスが欲しい。一目見るだけでも構わない。ギンが五番隊に呼び出してくれたらそれが叶うのだ。
「出来るだけ暇な時でいいからさ」
「藍染隊長に会いたいんやもんな」
もはやギンに筒抜けだが構わない。むしろその方が藍染隊長に会うという目的は果たされやすくなるだろう。
「このっ!」
毎日藍染隊長に会えるという位置が羨ましくてギンの頭を鷲掴みにすると、さらりとした髪が私の指を通った。
「やめーや」
ギンは大して嫌がってない様子で笑いながら言う。大して手入れしていないであろう髪の美しさにもまた腹が立って、私はギンの髪の毛を揉みくちゃにしてやった。
そんなことをしていれば眼下には霊術院生が続々と五番隊隊舎を出て行く様子が映り、刻限を突き付けられる。私は尻の砂を払いながら、ギンは髪を直しながら立ち上がるとそれぞれ別の方向に歩き出した。
「それじゃあまたいつか呼び出してね!」
「了解」
視界の隅で、ギンが弁当箱を掲げたのが見えた。