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仮入隊が終わると皆一皮向けたような顔をしていた。久しぶりに来る霊術院の教室は何も変わっていないのに、どこか場の空気が違う気がする。私達はこれから護廷十三隊、隠密機動、鬼道衆のいずれかに入るために本格的に活動しなくてはならない。授業の本数は減り、中身は一層濃密なものとなっていった。慌ただしく過ぎる毎日の中で、今が一番大事な時期だと悟る。藍染隊長と会うのはこっちがひと段落してからにしてほしいような、こんな時期だからこそ藍染隊長を一目見たいような。忙しい日々の中でも私はどこか頭の隅でギンとの約束を忘れられずにいた。

もう一度ギンと会う日。ギンに弁当箱を返してもらう日。それは初恋の藍染隊長に見える日でもあるのだ。いつ呼び出しがかかるかと浮ついた気持ちを隠せずにいた。

しかし、待てども待てどもギンからの呼び出しは来ない。約束をすっぽかすつもりだろうか。弁当箱を借り逃げ、藍染隊長とは会わせてくれない。ギンがそんなことをするはずないと言い切れないのが私である。

気付けば私の護廷十三隊への就職活動は終わり、後は結果を待つだけとなった。仮入隊のように五番隊への想いをぎっしりと綴り、実技でもまあまあの手応えはあった。上手く行けば五番隊に入れるのではないか。そんな期待を抱きながら私は退屈な日々を過ごす。この時期の霊術院の六回生というのは、基本授業もなく暇だ。一足先に試験を終えた護廷組は思う存分に羽根を伸ばしていた。玄関の隙間に挟まっていた紙切れを見つけたのは、私が友人達との打ち上げから帰宅した時だった。

「明日の正午 五番隊にて」

何の飾り気もない白い紙に、達筆で書かれた短い文字。署名がなくともわかる。細めの達筆の文字は、何とも彼らしいものだった。

「頑張った私へのご褒美、かな」

一つ呟いて空を見上げる。多忙とはいえ、ただの弁当箱を返すチャンスなんてギンはいくらでもあったはずだ。だが今を選んだのは私の就職活動が落ち着いた時期を狙ってのことだろう。ギンにしては優しい気遣いを肌身に感じながら、私は紙を懐にしまった。後は明日、五番隊へ向かうだけである。


そして迎えた翌日、私は悩んだ末に普段の袴を着て五番隊へ向かった。つい半年前まで毎日通っていた道だというのに既に懐かしい。これから先も、ここの道を毎日歩いて通勤したい。そう思うと不思議と胸が高揚する。それよりもまず先に私は今日藍染隊長に会うのだ。期待は十分に、私は五番隊の隊舎の前に辿り着いた。

てっきりギンが迎えに来てくれるものと思っていたけれどそうではないようだ。ならばと待ってみるがまだ来ない。そっと中を覗き見てみるがギンの姿はない。この様子をとこかで笑って見ているのではないかと辺りを見回してみるも、どこにもギンは見当たらない。

「どこにいるの……」

そもそもが大雑把すぎるのだ。「五番隊にて」では五番隊隊舎のどこを指すのかわかりはしない。だけれどその文言は、言わずともわかるだろうと言われているようで、しかもその場所が頭にしっかりと思い浮かんでしまうのがまた癪なのだった。ギンは今、あの丘にいる。最初から頭の隅にあった可能性を確信に変えて、私はあの場所へと歩き出した。