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長かったようで短かった休み期間も終わり、とうとう人事発表の日がやってきた。私は護廷十三隊一本に狙いを定めてきたが、場合によっては隠密機動や鬼道衆に回されるということもあり得る。ひとまずは護廷十三隊に入れますように、あわよくば藍染隊長とギンの隊に配置されますようにと願いを込めて霊術院の広間に堂々と設置された張り紙を見た。
無数に並ぶ名前の中で、ひとまずは自分の名前を見つける。苗字名前の文字列が所属するのは六番隊、朽木隊長の隊だ。歓喜や落胆の声が飛び交う中で私は不思議と冷静でいた。最初から全て思い通りになるなど都合が良すぎるし、十一番隊や十二番隊の一番避けたい隊はきちんと避けられている。昇進の機会はこれからいくらでもあるのだし、ひとまずは朽木隊長の下で腕を磨けばいい。
そっと視線を横にずらすと、やはり隊長の欄には藍染惣右介とあった。藍染隊長の下で働ける皆が羨ましい。喜びに沸き立つ声にそう思いながらふと副隊長の欄へ目をやると、そこには知らない名前があった。雛森桃。誰だろう。藍染隊長の傍にいられて羨ましい。そんな感情よりも、焦りに似た感情が私の中で渦を巻く。
五番隊の副隊長にいなければ、ギンはどこにいるのだろう。昇進? 左遷? まさかあのギンが何か重大なことをやらかすとは思えない。ではやはり、と思ったところで張り紙の上を目まぐるしく回っていた私の視線が一つの場所に止まった。
「いやあ、隊長なってもうたわ」
人事発表から数時間、ちょうどお昼の時間になると私はいてもたってもいられずにあの丘へと行った。なんとなく行かなければいけない気がしたからだ。そこにギンがいるかはわからなかったが、丘の頂上に辿り着いた瞬間彼は待っていたかのように口を開いた。
「……おめでとう」
「ありがとなぁ、名前ちゃんも護廷十三隊入りおめでと。これからは一緒に頑張ろうや」
ギンはそう簡単に語るが、「これから一緒に頑張る」の言葉はとてつもなく重い。霊王のために、ギンのような実力者の足を引っ張らないようにしながら命を懸けないといけないのだから。そんな私の不安に気付いたかのようにギンはこちらを向いた。
「なんや。やけに曇り顔やな」
何も話さない私を置いて、ギンは一人で話し出す。
「藍染隊長のことか? まあボクも五番隊に入れてあげようともしたんやけど、一人の意見で決まるわけやないからな」
「それ本当!?」
目を輝かせる私に、ギンは楽しそうに言った。
「本当本当。でも最終的には朽木隊長に取られてもうたわ。あの人もええ人やし頑張りや」
そう頭に手を乗せられて、私は心の不安がいくらか軽くなるのを感じた。不安なんて数え上げればキリがないが、先程まで私が感じていた不安は藍染隊長と同じ隊になれなかったことだけではない。ギンと同じ隊になれなかったこともまた私の表情を曇らせていたことの一部なのだと、今になって気付いた。それにしてもあの私の邪魔ばかりしていたギンが私を五番隊に推すなんて珍しいこともあるものだ。
「……ありがとう。私、周りに報告してくる!」
「おー、行きや行きや」
丘を駆け下りる背中が見えなくなると、ギンはふと遠くを見、口を開いた。
「本当は藍染隊長が五番隊に入れようとしたんをボクが邪魔して、見てられへん言うた朽木隊長が六番隊に入れたんやけどなあ」
まあ、それを言うたら怒るやろ。ギンは笑いながらそう言った後表情を引き締める。名前を藍染の忠実な部下にしては、藍染の計画に巻き込んではいけないと。