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「本当に作ってきてくれたんや」
「冗談だったわけ?」
「本気や本気、驚いてるだけやろ」

あの邂逅から数ヶ月、私達は定期的にあの丘で会うようになっていた。行く日を示し合わせるなんてことはなく、ギンも私も気まぐれで行くので勿論会えない日も多い。そんな日は一人で風を感じながら弁当を食べるのだ。ギンは言わずもがな隊長で多忙だし、私だって六番隊の同期との付き合いもある。これくらいが私達にはちょうどいいのだろう。ただの友人にしては、やけに仲がいいのかもしれないけれど。

弁当を二つ広げると、ギンが感嘆の声を上げた。それほど豪華なものは作っていないが一応気合いは入れたつもりだ。早速手を合わせて食べ始めたギンの横顔を窺うと、ギンは満足そうに頬を緩めた。

「美味い」
「それはよかった」

ギンはその後もハイペースで箸を進め、あっという間に弁当箱を空にしてゆく。その様子を見ながらまたギンが弁当箱を洗って会う約束をすることになるのかなとふと思った。今はあの頃と違って定期的に顔を合わせているから大した意味はないのだが、それでも次の約束をするというのは何か特別な気がする。

「コレ、洗って返す?」
「当たり前でしょ」

案の定そう言ったギンに可愛らしくない言葉を返して私も弁当を口へ運ぶ。今朝味見した通り、まあまあの出来だ。失敗はしていない。ギンはまた何もせずにご飯を食べる私を見ているかと思えば、唐突に口を開いた。

「好きやわ」
「何が?」
「名前ちゃんが」

ここで顔を赤く染めたり、食べ物で噎せかけるような私ではない。何しろ相手はギンなのだ。今まで何回此奴に嵌められたのだろう。私は目を細めてギンを睨むと、身を引いてギンから距離を取った。

「そういう風にからかうのやめてくれる」
「本気なんやけどなぁ」
「またそうやって馬鹿にして」

そう言うとギンは困ったように頭をかいた。自分の信用のなさに自覚はあるのだろうか。ここで素直に照れなどしようものならどうなっていたことか、想像しただけでも恐ろしい。

「ボク隊長やし、稼ぎあるし、玉の輿やと思うんやけどなぁ」
「そのかわりに人をすぐ騙すでしょうが」

最近六番隊でもギンの噂を聞いた。主に女性の同期からだ。市丸隊長が格好いいとか、新米隊長なのにすこぶる腕がいいとか。ギンの上っ面しか知らない女性はそういう所に熱を上げてしまうのだろう。だがその中身は人の恋心で遊ぶ畜生だ。今すぐ私が霊術院時代にされていたことを教えてあげたくなる。いずれにせよ、私の中で藍染隊長より素晴らしい男の人はいないのだ。

「なんかギンと恋バナって変な感じ」
「今まで散々ボクに藍染隊長のこと語ってたやろ」
「あれはまた違うの!」

おかずを口に運びながら今までギンとしてきた会話を思い出す。それと同時に、新しくできた六番隊の同期達とした恐らくは正しい「恋バナ」を思い出す。誰が誰を好きだの、告白して振られただの、確かにギンと話している内容とは違う気がした。

その時、ふと閃いた。私は今まで藍染隊長を好いていたし、それを本人に気付かれもしていた。しかし告白はする気はなかった。今のままでいいと思っていたからだ。だが守って何になるというのだろう。結果が見えていても、私は藍染隊長に告白したという事実を作りたい。どうせ仕事で関わることはないのだから気は楽だ。

「決めた。私藍染隊長に告白する」

てっきり「何でそうなんねん」とでも突っ込むと思っていたギンは、複雑そうに下を向いていた。