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決めたなら即実行が私のモットーだ。だが私の準備が整っていても、藍染隊長はそうとは限らない。何しろ多忙な人なのだ。同じ隊長格のギンが何故あんなに暇そうにしているのか不思議にすら思えてくる。藍染隊長と話すどころか顔すら見えないまま一週間、二週間が経ち、一ヶ月が過ぎそうな頃ようやく私は藍染隊長と見えた。

「お久しぶりです、藍染隊長」
「久しぶりだね、苗字君」

用件はしっかり用意して手短に。過去の失敗は生かすべきだ。

「あの、五分でいいのでお時間を頂けないでしょうか。どうしても、二人でお話したいことがあります」

こう言えば藍染隊長にはもう何のことかわかってしまうだろう。ここで断ることで間接的に私の告白を断ることもできたかもしれない。けれど藍染隊長は、私の全身全霊をかけた告白を受け止めてくれるらしい。

「わかった。明日の終業後、五分だけなら空いているよ。五番隊の門の前に来てくれるかな」
「……はい!」

私は勢いよく頭を下げて礼を言った。これで私は藍染隊長に告白することができるのだ。こんな感動は初めて藍染隊長に会った時以来かもしれない。私は浮き足立ったまま六番隊へと戻った。その二日間の浮かれようはまるでギンに騙されて藍染隊長に会いに行こうと教官室へ向かった時を思い出す。だが今度は嘘ではなく本当に、向かった先に藍染隊長がいるのだ。

約束の当日、私は終業を迎えると同時に瞬歩で五番隊へと向かった。もうすっかり慣れた五番隊の門でさえ私の緊張を煽る。五番隊の藍染隊長よりも早い到着に、藍染隊長は少し笑ってみせた。

「じゃあ行こうか。話は五番隊の庭でいいかな?」
「はい!」

時間は限られている。再び瞬歩を使って藍染隊長の後を追いかけ、美しい五番隊の庭に降り立った。仮入隊で私も踏み入れなかった区域なので、恐らくは隊長や副隊長だけが入ることを許されるのだろう。この場に連れてこられた時点で、藍染隊長が私に何を言われるか悟っていることは理解できた。促すような瞳が私を捉える。私は小さく呼吸を整えた後、勇気を出して口を開いた。

「藍染隊長、あなたが好きです。一人の男性として」

見上げた藍染隊長は、酷く穏やかな顔つきをしていた。


帰りの足取りは、行きと違って酷く重かった。六番隊の隊章をつけて五番隊の敷地内を歩く私を何人かが珍しそうに見る。その視線すら今は気にならない。今はただ、一人になりたい。

ようやく五番隊の門まで辿り着いた時、そこに一つの人影を見つけた。

「ギン……」

初めて出会った時より随分大きくなった。もうとっくに私の背など追い越した。藍染隊長と並んでもさほど変わりのない長身が、夕陽に照らされてそこに佇んでいる。
どうしてここにいるの、と言おうとした言葉を遮るようにギンは私を自分の腕の中に閉じ込めた。ギンの腕は細いようで逞しい。全身から伝わるギンの体温が私を包む。

「アンタ何考えてるわけ」

そう言ったのは何もおかしくはないだろう。こんな、いきなり現れて抱きしめるだなんて。私でなければ通報されてもおかしくない。

「名前が藍染隊長に振られてボクのとこ来ればええ思ってる」

そう語った声は酷く優しくて、私の目からは涙が零れた。いつもみたいに気丈に憎まれ口を叩きたいのに、私の口から出るのは震えた声だった。

「馬鹿じゃないの……」

ギンはそれに言い返さず、ただ私を抱きしめた。私もギンの背中に腕は回さず、ただ抱きしめられていた。ここが五番隊の門の前だということや、その他全てがどうでもよかった。ただこの場にギンがいてよかったと、少し前とは正反対のことを考えていた。

「君の気持ちは嬉しいよ。でも残念だが僕はその想いに答えられない」

頭から離れない声は、私ごとギンが包んでくれるようだった。