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結局ギンに会わないまま二週間が過ぎた。たったの二週間だというのに、こうも寂しく感じるのは何故だろう。いつのまにかギンが自分の中で大きな存在になっていたことに驚きながら私は必死に日々を過ごした。恋愛ごとに浮かれる前に、私は六番隊の新人隊士である。例のテストはなんとか合格したがそれからも厳しい生存競争があることに変わりはない。同期に遅れを取らないよう、私も刀を振るった。そうしているとギンのことも藍染隊長のことも忘れられるようで心地よかった。慣れない夜の散歩などをしてみたのも、偏にそのためかもしれない。

日付が変わろうかという頃、私は家を出て精霊廷内を散策していた。貴族が暮らすだけあり、精霊廷内はどこも雅で美しいというのが私の感想だ。今まで修行に追われ周りを見る暇なんてなかったが、これはいい機会かもしれない。

夜道に覆い被さる桜並木を見ながらもう少し早ければ夜桜が見られたかもしれないな、と思った。もっとも、その頃の私は六番隊に入ったばかりでてんてこ舞いだったが。街灯もない道を歩きながら少しは強くなれているんだろうかなんて思う。勿論私の目標は藍染隊長だけれど、それにはまだまだ遠い。

鬱蒼とした森が視界に広がり始めれば、そこはもう私の知らない領域だ。どうやら歩きすぎたらしい。今夜はもうやめにしよう。踵を返そうとした私の視界に、とある人影が目に入る。

正確には、手にしたランプに照らされて浮かび上がった人の顔だ。それは紛れもなく藍染隊長のもので、私はその場に凍りついたように立ち尽くしていた。

どうしてここに藍染隊長がいるのだろう。手に何か用意しているようだし、どう見ても夜のお散歩という雰囲気ではない。しかも藍染隊長が向かっているのは森の中だ。精霊邸内でも訪れる人の少ない森に、藍染隊長は一体何の用があるのだろう。

行ってみたい、と私は思った。藍染隊長がどうしてここにいるかなどはどうでもいい。そんなことは話しかけるきっかけにでもするから、私は藍染隊長と話がしたい。この誰もいない夜に二人きりという状況が、私の恋心に再び火を付けていた。

藍染隊長。私がそう口を開きかけた時、目の前に誰かが現れた。それと同時に肩を強く掴まれる。見上げると、険しい顔付きをしたギンがこちらを見ていた。

「行くな」
「何でギンがここに、」
「もう振られたんやろ、行くなや」

ギンは私の言うことなどまるで聞こうとしなかった。そのくせ私の心の中は簡単に読み取ってしまう。私の中にある下心を、ギンは見抜いている。

恥ずかしさと情けなさで私は下を向いた。確かに私は藍染隊長に振られている。それでもお近付きになりたいと思うのは私の自由ではないか。今夜ここでちょっと話をするくらい、きっと藍染隊長にとってもギンにとってもどうでもいいことではないか。

「何で私の邪魔するの」

思えば、出会った時からギンは私の邪魔ばかりしていた。それに納得できる答えをギンはくれなかった。

「言うたやろ。名前のことが好きやて。それともう一つあるけど今はどうでもええ。行くなや」

ギンが私の肩を掴む手に力を込める。肩の肉がギンの指の形に合わせて凹むのがわかる。月明かりがギンの髪を白く照らす。その奥で、藍染隊長は森の中へ姿を消してしまった。