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完全に嵌められた。またしても生意気なあの少年、市丸ギンに。今頃私の反応を思い出して笑っている顔がありありと想像できる。一日経った今となっては怒りより悲しみの方が勝っていた。何と言っても私は藍染隊長の前で大失態を犯したのである。

興味津々という様子で私の元へ集まってきた友人たちは私の話が終わると顔を見合わせた。何でも、私はあの市丸ギンと親しいということで有名になっているらしい。そんなもの全くの事実無根だし、別に嬉しくもなんともないのだが。

「ほんっとあのクソガキ、わざわざ用意周到に私が話すことないかまで確かめてから騙しやがって……」

机に突っ伏して呪怨を口にする私に、友達の一人がおずおずと進み出た。

「でもそれって、連れて行ってあげることは確定してたけど話す内容を一回名前に考えさせようとしてたんじゃ……」
「それはない!」

私は思わず叫んでいた。周りが驚いていることに気付き、もごもごと続きを口にする。

「市丸ギンにそんな気遣いができるとは思えない」

友人の考えた通りなら市丸ギンは善意で私を藍染隊長の元に連れて行ったことになる。そんなことは絶対にありえない。市丸ギンは私に話題がないことを確かめ、恥をかかせるために連れて行ったのだ。そっと周りを見ると、友人達は何故か感動したという表情で私を見ていた。

「市丸副隊長のこと呼び捨てにするほど仲が良いのね……」

その目はまるで、若者達の恋を見守ろうとする親戚の中年女性のようである。

「そんなわけないから! 本人の前ではちゃんと市丸副隊長って呼んでるし! 癪だけど」

だが一度そのモードに入ってしまった女を止めるのは難しく、私は朝礼が始まる直前まで質問攻めに遭った。ようやく解放されたと思うのも束の間、次なる試練が私達の前に降ってくる。

「今度から始まる仮入隊の件についてだが――」

仮入隊。その言葉に誰もが背筋を正した。私達真央霊術院生は、卒業後それぞれ護廷十三隊、鬼道衆、隠密機動へと進む。中でも護廷十三隊は、霊術院六回生の内に一定期間希望する隊への所属を仮入隊として行えるのだ。これは私達護廷十三隊希望の者のとって重要な出来事だった。新規卒業者として配属の希望を出せるのは一度きりだし、入ってから異動願いを出すのはなかなか難しい。つまり私達には早い段階で希望の隊を決め、動き始めることが必要になる。朝礼が終わった後のざわめきでは、もう誰も私と市丸ギンの話などしていなかった。

「ねえ仮入隊どこにする?」
「私は六番隊がいいかなって考えてる。名前は?」
「え? 私は勿論――」

そう聞かれて浮かぶのは勿論五番隊である。しかし同時に市丸ギンの顔が私の脳裏を過った。藍染隊長に近付こうとすると、セットであいつもついてくるのだ。だがそんなこと、藍染隊長の前で失態を挽回できないよりずっといい。

「五番隊」

私がしっかりとそう言うと、友人達はもう冷やかしもせずに次の話を進めていた。

「十一番隊は仮入隊が鬼のようにキツイらしいよ」
「十二番隊なんか人体実験されるって」

根も葉もない私と市丸ギンの噂話より、前へ進むための情報交換をする。霊術院生の会話とはきっとこれでいいのだと思って、私は友人達の隣に並んだ。