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三月はあっという間に去り、私達は六回生になると共に仮入隊が始まった。私は希望通り五番隊所属だ。藍染隊長をどれだけ慕っているか、あの講話にどれだけ心打たれたかを欄外にまでびっしり書いた志望理由欄が良かったのだろう。とりあえず五番隊に仮入隊できたことに安堵しながら私は五番隊隊舎へと向かった。今日からは霊術院ではなく仮入隊の隊舎へ直接向かうことになる。藍染隊長にも毎日会える。

私は喜びと興奮で心躍らせていた。本当はこれから未知の体験をし、将来の護廷十三隊隊士として研鑽を積めることに興奮していなければならない。勿論それもなくはないのだが、何と言っても藍染隊長と毎日会えるということが強すぎた。それに比べればその他の理由など霞んでしまうものなのである。

三度目となる五番隊隊舎へ辿り着くと、まだ誰も霊術院生はいなかった。五番隊の隊士らしい人が忙しく動き回っているのが遠目に見えるだけだ。つまり私が一番乗りだ。私が心の中でガッツポーズをしたとき、どこからともなく声がした。

「こんなに早く来るとは感心だね」

目の前を歩いてくるのは、夢にまで見た、私の敬愛してやまない藍染隊長である。

「お、おはようございます!」

しばし自分の世界に入っていた後我に返って挨拶をすると、「おはよう」と優しい声が返ってきた。

「君はこの間ギンが連れてきた子だろう? 久しぶりだね。五番隊に来てくれて嬉しいよ」
「そんな……」

一方的に押しかけ藍染隊長を困らせてしまったような邂逅でも、藍染隊長はきちんと覚えてくれていたのだ。その事実に心が震えた。

「志望理由欄もありがとう。あまりに書き込んであって驚いたよ。そういえば、あの時の僕に話って何だったんだい?」

私は二度目の窮地に立たされる。藍染隊長に会いたいとばかり考えて話の内容を考えてないのは今も変わらないのだ。必死に頭を巡らせた後、とある言葉に辿り着く。

「……志望理由欄に書いたこと、です」

その場しのぎの苦し紛れだが、一応嘘は言っていない。私は藍染隊長に敬愛していますと伝えたかったのだから。藍染隊長は目を伏せると穏やかに笑った。そんな姿も美しかった。

「そうか、ありがとう。僕はもう行くよ。朝礼の時にまた会おう」
「はい!」

遠ざかって行く藍染隊長の背中を見ながら、もしかしたら私に答えがないのを見越してわざとヒントをくれたのかもしれないなと思った。藍染隊長はそういうことができる人だ。いずれにせよ、私は藍染隊長と話せた。文字でだが言いたいことも伝えられた。私は喜びに打ち震えていた。

見たか、市丸ギン。私は思わず心の中でそう呟く。私と藍染隊長の邪魔をしては喜ぶ市丸ギンが今の状況を見たら何と言うのだろう。勿論あの場にいてほしくなんかないけれど。

今日の勝因はやはり市丸ギンがいなかったことだ。逆に言えば、藍染隊長と一対一なら私はまともに話せることが証明された。これから仮入隊の間、なんとかして藍染隊長とお近づきになりたい。私は気合を新たに朝礼を待った。