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「は? 何でお前がチャロのこと知っとんねん」
「だから言うたやろ? 本当て」

驚きに口を開ける侑に私は得意げな顔をしてみせる。昨日言われた通り隣の家のチャロに噛まれた話をしてやれば侑はこの表情だった。今日家に帰ったら宮侑の前で事細かに報告してやろう。一応自分なので怒るだろうか。そんなことを考えていれば、侑の表情が今度は険しいものに変わった。

「仮に本当だとして」
「どっちやねん」
「じゃあ何でお前はホイホイ知らん男自分の家に上げとんねん。そんなんでもお前一応女やろ? しかも一人暮らして。何かされても文句言えへん」

これは心配されているのだろうか。とりあえず侑は、危機感が足りないと文句を私にぶつけたいのだ。これまでもそういったことは何度かあった。一人暮らしの私を気遣ってかからかってか、侑が異常に私を気にかけることが。

「知らん男て、侑やん。平気やろ」

私がそう言うと侑は目を瞬いた後「あ〜〜」と言いながら頭を掻いた。一体何がしたいのだろう。変な奴だ。


かく言う私も実は宮侑との生活に安心しきっているわけではない。目の前の侑の顔を見ていると、初めて家に来た日の宮侑の顔が蘇る。

あの日、宮侑を住まわせる住まわせないの口論がひと段落ついた頃、乱れた息を整えて宮侑はふと口を開いた。

「さっき俺と名前は付き合ってへんて言うたやん?」

いきなり何を言い出すのだろう。私は精神疲労で怠い頭を宮侑の方へ向ける。

「あれ嘘やねん」
「はっ!?」

今度こそ勢いよく私は宮侑の顔を見た。相変わらず試すような、からかっているような読めない宮侑の表情がある。そういうところは全く今と変わらない。そんな宮侑に私は弄ばれているのだろうか。

「あれは高校の時、名前を家に送っとった時付き合ってへんかったって意味やねん」

段々と語られる宮侑の言葉にこの会話の行く末を察してしまう。どうか違っていてほしいと思うような、不思議と受け入れられてしまうような。

「二十四歳の俺は名前と付き合っとるよ」
「は……」

その言葉が語られた時、私の口から出たのは情けない声だった。頭の中に宮侑、目の前の成長した宮侑と、適度に成長した私が並んでいる姿が思い浮かぶ。それが手を繋いで、寄り添って……となるとどうしても居たたまれない気持ちになる。毎日顔を合わせている相手だ。そんな侑だからこそ、恋人としてやっている未来が想像できない。というか、想像したら悪い気がする。
黙り込んだ私の隣に回り込むと、宮侑は私の肩を抱いて顔を寄せた。

「だから名前の家に来たんやで。な、泊めてくれへん?」

こうして私は宮侑と同棲することを決めた。言わば口説かれたのである。未来でもう付き合っているなら口説くも何もないのかもしれないが、それでも宮侑に上手いこと言いくるめられたのは事実だ。これは侑に言えないな、と思いながら目の前の侑を見て、未来で付き合っているということを思い出しては顔を背けた。