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翌日は体育館の点検ということで部活は一日オフだった。朝練も放課後練もないのは久しぶりだ。笑顔の宮侑に見送られ、私はぎこちない足取りで部屋を出た。圧倒的な普段との違和感は部活がないからではない。昨晩、宮侑と一緒に寝たからだ。

今朝気付けば宮侑の腕の中にいた私はどれほど叫びたい気持ちに駆られたことだろう。しかし隣で気持ち良さそうに寝る宮侑の顔を見るとそうもできないのだった。宮侑の寝顔を見入ること数分、「何、惚れた?」といつものしたり顔で宮侑が語り出したのは突然のことだった。

「んなわけあるか! はよ腕どけや!」

宮侑の腕の中で散々に動き回ると、宮侑は笑いながら私に回した腕を外した。男の人とはこんなに力が強いものだったのか。いや、きっと宮侑がプロのスポーツ選手だということもあるだろう。今の侑もあんなに腕の力が強いのだろうか――そう考えた瞬間、侑に抱かれて寝る自分を想像してしまい、私は大きく頭を振った。何を考えているのだろう。いくら将来で付き合っているといえど、侑はただのチームメイト、クラスメイトだ。
そこにタイミング悪く、隣に並ぶ足音に私は気付けなかった。

「おはようさん」

侑だ。声を聞いただけでわかる。私は思わず侑の顔を見上げたまま、何も言うことなくただ固まっていた。ぽっかりと口を開けたまま自分を見上げる私はさぞかし侑にとって間抜けに見えただろう。

「……どうしたん」

何かからかわれると思いきや、意外にも侑は怪訝そうな顔をして言った。何か答えたいと思うのに、目の前の侑の顔が今朝見た宮侑の寝顔と重なる。

「あ……あ……」

顔がどんどん熱を帯びて行くのがわかる。いっそこのまま限界まで熱くなって爆発してしまえばいい。侑の前でこんな姿を晒すなんて死んだ方がマシだ。

「ご、ごめん!」

そう言って私は走り出した。もし追われようものならすぐに追いつかれてしまうだろうが、侑は追いかけなかったようだ。私でもこんな挙動不審な奴がいたら追いかけない。せいぜい変なものでも食べたのかと思うか、具合が悪いのかと思うくらいだ。侑もきっとそうだろう。侑にとって私も、ただのチームメイトでクラスメイトであることに変わりはないのだから。せめて次の部活で散々ネタにされないことを祈ろう。

私はひたすらに足を動かして学校まで辿り着くと後ろを振り向いた。見える位置に侑はいない。よかった。教室でもしばらくは侑を避けてしまうことになるだろう。そう思うと胸が痛むのだが、不思議と普段面倒なくらい構ってくる侑は今日全く私に話しかけなかった。避ける必要すらなかったのだ。もしかしたら未来の侑の話と今朝の私の様子で何かを察したのかもしれない。私は半ば安心して放課後友達とアイスクリーム屋に寄る約束をした。