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「お前か? 最近名前に付きまとっとんのは」

放課後、実家近くの運動公園に行くと予想通りその男はいた。未来から来た宮侑、将来の自分自身だ。俺本体と見間違われることを避けてかキャップを深く被ってはいるが、俺自身は欺ききれない。距離を詰めると、"俺"は呆気なくキャップを取った。

「せやで。悔しいか? 何にもできひん腰抜け野郎が」

全貌が明かされたその姿に俺は思わず息を飲んだ。そこにいるのは紛れもなく自分自身だったからだ。そんなことが有り得るのか、という問いの答えは今目の前にある。どうせ未来から来たのなら今自分は何をしているのかとか、周りはどうなっているのかとか聞きたいことは色々あるがそんなことをしに来たのではない。

「未成年の家に無理やり泊まっとる奴に言われとうないわ。お前、名前に何した」

腰抜け野郎。悔しいがそれは今の自分に合っている。名前に自分の思いすら伝えられない自分に。つくづく目の前の宮侑は自分自身なのだと思う。そう、どこか狡猾で手段を選ばないというところでさえも。

「名前なら俺が未来で名前と付き合っとる言うたらすぐに泊めてくれたで? ま、嘘やけどなそれ。本当は俺未来で名前に振られてん」

そう言った"俺"を、思わず俺は拳で殴っていた。

「痛いなぁ。ええんか? バレー選手が人殴って」
「少し黙れや……」

目の前の"俺"は俺の反応を楽しむように笑っていた。そういうところにまた腹が立つと同時に、普段自分も人をおちょくるためにやっていることだと思い当たる。目の前のこいつは紛れもなく本物で、今俺に言っていることは真実なのだ。

「ふざけんな、名前騙して弄んで楽しいか」
「楽しいで。何も言うことすらできずにそばで指咥えて見てるよりはな」

俺はまた"俺"を殴った。"俺"は変わらずヘラヘラと笑っている。反撃してこないのは年上の余裕だろうか。それとも殴られるだけのことをしている自覚があるのだろうか。とにかく今俺は怒りに沸いている。けれどそれは名前を好きでいるのに何もできないでいることを言い当てられた図星さのようで、怒っている自分にもまた腹が立つ。もう頭の中が滅茶苦茶だ。荒く息を吐く俺を見て、"俺"は自嘲気味に笑った。

「好きなら何で名前に言わない? 何で俺の所に来る? 俺殴るくらいだったら先に名前を自分のモノにすればええやんけ。最初っから名前と付き合ってたら、俺のことなんか泊めへんかったかもな、名前」

その言葉は紛れもなく正論で、俺はまた拳を握り締めた。