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「今日は飲んでこうぜ」

そう言うと、名前の顔が輝くのがわかった。

「うん!」

正直自分はすぐに潰れるので記憶はないのだが、名前の様子から察するに毎度名前は楽しんでくれているらしい。前に聞いた話では、太宰がその日あった任務の話や珍しい敵の話をしているのだとか。

中也は内心で太宰の悪態をついた。大元を作った元凶のくせに、名前を慰めるとはいい度胸だ。そんなことをするくらいならば名前の任務を自由に受けさせればいい。

そう考えて、数秒の後に中也は首を振った。お互いに機密だらけの任務の話などつまらない。要するに、中也は幼馴染三人が集うあの時間を気に入っているのだ。今夜も中也は記憶をなくすだろうが、そこは太宰が上手くやってくれるだろう。

自分の面倒を太宰に見させるため、中也はあえて太宰の隣に座る。それは思春期を迎えた幼馴染が自然と男女で席を分かれたことの名残でもあったし、酔って名前に絡むのが怖いからでもあった。

とにかく今日は、幼馴染三人が集う日だ。約束の飲み屋へ行くと、既に名前が席に着いていた。

「さっきぶり、中也」
「おう」

中也は自然と向かいへ座り、メニューを開く。こうして大衆居酒屋で会えるのが幼馴染のいい所だと思う。

「ねえ、今日は中也の話聞かせてよ」
「……何だよ急に」

テーブルに身を乗り出した名前を中也は訝しげに見る。普段寡黙を貫いているつもりはない。

「だって中也、酔ってすぐ潰れちゃうんだもん」
「……」

そういうことかと理解すると同時に中也は黙った。なんだか複雑な気分だ。しかし、名前に求められたのなら太宰が来るまで自分から話してもいいだろう。どうせ話は彼奴の方が上手いし、詳しいことは太宰に聞けばいい。

中也は口を開くと語り出した。機密事項に触れない範囲での今日の任務。戦った敵。見たこともない罠。感じた命の危機。それぞれに名前は面白いまでの反応をした。こんなに真剣に聞いてくれるなら、話しがいがあるというものだ。

「中也の話って感情がこもっててすごい面白い。私まで行った気になっちゃった」

そう言った名前に、思わず言葉が口から出た。

「名前も来りゃいいじゃねェか」

途端に悲しげに変わった名前の表情に、中也は地雷を踏んだことを知る。ここには触れてはいけなかった。名前の任務に対して思うところがあるのは中也だけではなかったのだ。

「……悪い」
「ううん」

さてこの空気をどうするかと考えていた時、この能天気な男が来たのは救いだった。

「やあ名前、中也。もう始めているのかい?」

元凶であり、今この重い空気を打ち破った男。太宰のことだから今まで何を話していたかなんてきっとお見通しなのだろうな、と思いながら中也は一言「お前待ちだよ」と言った。