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とにかく俺は酒に弱い。すぐに酔いが回る。机に突っ伏しながら、中也はそう思った。対する太宰は飄々として名前と何か話している。それを憎たらしく思いながらも中也はどうすることもできなかった。

酒の強さとは努力でどうにかできるものではない。度数の強いものを継続して飲み続けていたら少しは強くなれるのかもしれないが、たかが知れている。第一、それが可能なら自分はとっくに酒に強くなれているというものだ。

「ホラ、帰るよ、中也」

太宰の声に返事にならない返事をして、中也は無理やり席から立たされた。


勿論このまま解散をするわけではない。何しろ中也はロクに歩けない状態だし、今は日付が変わったかという頃だ。電車は既に走っていないだろう。全員飲んでいるので残る手段はタクシーを呼ぶか、それ程遠くない家まで歩いて帰るかだ。

「あの、太宰」
「じゃあみんな歩いて帰ろうか」

何かを言いかけた名前を遮って太宰は口を開いた。それはここで解散し、各々の家に向かうということで、期待するように上目遣いをしていた名前は今は下を向いていた。中也は心の中で舌打ちをする。この男がわからずにやっているはずがないのだ。

「じゃあみんな気を付けて帰るんだよ。特に中也」
「うるせェよ」

呂律の回らない舌で返事をし、中也は異能で自分の体を操りながらなんとか歩いた。振り返ると、太宰と名前が別々の道へ向かうのがわかる。中也は知っている。太宰は元々名前と同じ方向に住んでいたが、わざと住居を変えたことを。太宰が夜道に女を一人で帰すような女ではないことを。

わざとらしく大きなため息を吐くと、酒の匂いが中也の鼻をついた。太宰と名前と中也が三人でバラバラに帰ること、それはこの三人が定期的に集まって飲むこと同じくして当たり前のことだった。だが一度だけ、名前は太宰に頼み込んだことがある。一緒に帰らないか、と。

つまりは自分を送ってほしいということだ。普段の太宰ならまずそうするだろうし、実際中也か太宰のどちらかが名前を送らなければならないと思っていたところだ。中也は太宰がやるなら自分の手間が省けたとすら思っていた。しかし、その直後に太宰はあの読めない瞳で言った。

「仮にもポートマフィアの構成員なら、夜道くらい一人で帰れるようにならなくちゃ」

中也は思わず目を見張ったものだ。それは名前も同じようで、何度か目を瞬いた後「そうだよね」と笑った。それが無理をしているのは明らかで、何故だかこっちまで苦しくなった。

中也が太宰に関して理解できないと思う最大の理由、それは名前に寄せられている好意を知りながらわざと無視していることだった。