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自分達が双黒として持て囃される度に、名前に申し訳ないような気持ちになる。本来ならば中也や太宰には及ばずとも名前も実力者であるし、その活躍を妨げているのは我が相棒だからだ。今日も任務に向かう途中で、中也は鋭く太宰を睨みつける。

「何の恨みだい?」
「どうせわかってるくせに聞くんじゃねェよ」

すると太宰は、楽しそうな顔をして両の手を合わせた。

「心当たりがありすぎてどれだかわからない」
「ったく……」

その中には、勿論名前の件も含まれているのだろう。太宰は名前が自分の行動で傷付いていることも、そのことに対して中也が怒っていることも知った上でなおそれを続けるのでタチが悪い。だが中也がもう一歩踏み込んで太宰に怒りをぶつけられないのは、そうすることを名前は望んでいないと分かっているからだった。詰まる所、中也はこの二人の動向を見守るしかないのだ。

名前はどれだけ太宰に冷たくされても変わらず太宰を好きでい続けるのだから、この二人の恋の行方は太宰の気分次第なのだが。肝心の太宰が何故か頑なに名前を拒絶してばかりなのだから、この二人は永遠に結ばれないのかもしれない。なんて考えたら名前に悪いだろうか。少なくとも、中也は名前の恋を応援している。

「余計な事は考えるな。さぁ、行くよ」

太宰が静かな声で言った。珍しく真剣な声色は、今回の任務が「双黒」である自分達にとっても難しい任務であることを表していた。

「おうよ」

中也も準備をし、気合い万全に車から降りる。


任務は問題なく遂行できたが、やはり骨が折れた。精神的にも、肉体的にもだ。既に腕の骨が軋んでいる中也は、出来るだけ刺激を与えないよう右腕を車の手すりに乗せた。太宰も無傷とは行かなかったようで、普段無駄に張り巡らされている包帯がしっかりとその役目を果たしている。今日はお互いに、大変な任務をしたものだ。

本部の前に着くと、中也は慎重に車を降りた。次いで太宰も降り、二人を残して黒塗りの車は駐車場へと去ってしまう。その奥から、一人の人物が走ってくるのが見えた。名前だ。

「太宰! 中也!」

名前はスーツに皺が寄るのも憚らずに、息を切らしてこちらへ駆けてくる。きっと中也と太宰の任務が難航していることを聞いて居ても立っても居られなくなったのだろう。怪我はしてしまったが、二人共無事だ。中也がそう言うより先に、太宰が静かに口を開いた。

「何で来たんだい? 君」
「え……?」

名前はわけもわからず太宰を見つめる。しかし太宰は、冷たい目で名前を見下ろすばかりだった。

「私達はまだ任務の最中だ。ここはまだ本部前だよ? 邪魔しないでくれるかな。迷惑なんだよ、何もかもが」

太宰のここまで感情のない声を聞くのは初めてだった。もしかしたら、それは抗争相手を前にした時より冷たい声なのかもしれなかった。最後の一言は、きっと名前の好意でさえも指し示していた。

「あ……ごめ……」

それしか言えない名前を置いて、太宰は音を立てて本部へと入っていく。その背中を、中也が追った。