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進捗の悪かった仕事も昨日で挽回し、今日はまる一日休日となる。特に予定も入っていなかった私は、朝食を食べ終えた後も居間のソファに腰かけていた。余談だが、秀一さんが来てからというもの、私はソファに寝転がるということをしていない。秀一さんの前でそれは見苦しいからだ。秀一さんは朝食の洗い物を終えると、私の隣に一ミリの隙間も空けずに座った。

「出掛けることはできないが、二人で家の中で楽しもう」

まるでお家デートだとでも言わんばかりの調子で秀一さんは私を見る。いずれにせよ今日は家で、つまりは秀一さんと過ごすつもりだったので私は小さく頷いた。すると私の腰に腕が回り、二人の距離がさらに縮まる。同じ家で寝泊まりし、休日も一緒に過ごすなどまるで夫婦のようだと思って自分で恥ずかしくなった。現在の赤井さんにメッセージを無視されていてよかった。赤井さんと過ごすより、秀一さんと過ごす方が今の私にとっては楽しい。私はテレビ台の収納を開けると、いつ買ったかもわからないDVDの数々を取り出した。全て私のセレクトで、秀一さんからすれば馬鹿らしい映画だっただろうが秀一さんは不満の一つも漏らさずに観てくれた。ただ一つ言うなら、主人公と相手役がいい雰囲気になったりキスをする度に口笛を吹いたり私を抱き寄せたりするのはやめてほしかったが。

途中でお茶休憩を入れ、私達は最後のDVDを再生する。そしてヒロインのアイリスとボーイフレンド・ケニーが自宅で見つめ合うシーンで思い出した。この映画には、濡れ場がある。気付いた時には遅かった。秀一さんは映画に集中している様子だし、もうすぐエンドロールを迎えるこの映画を途中で切り上げる言い訳も思い浮かばない。いくら未来の秀一さんとはいえ、秀一さんと濡れ場を見るのは恥ずかしすぎる――私が適当な理由をつけてトイレにでも行こうかと思った時、秀一さんが私の手を掴んだ。思わず秀一さんを見れば、秀一さんはテレビの画面を凝視したまま私を繋ぎ止めている。そうこうしている内に濡れ場は始まり、テレビからは湿った声が聞こえていた。二人しかいない居間の中で、私は仕方なく元の位置に収まった。

ティーンのアイリスとケニーらしく、二人のセックスは初々しいものだった。しかし若さに任せて荒々しいセックスをするのではなく、しっかりと相手を思いやった慈愛に溢れたセックスだった。私は自分も知らぬ間に二人を羨んでいることに気付いた。濡れ場を見て思った通り、単純なセックスの腕なら赤井さんの方が上だ。だが、私と赤井さんはあんな慈愛に溢れるセックスをしたことがなかった。むしろ、私達のセックスはあの二人のそれとは対極にあるものだった。勢いに任せ、快感のためだけに短時間で済ませるセックス。それで満足してしまえるようになったのは、いつからだっただろう。

私はふと、隣の秀一さんを見た。私に絶え間ない愛を注いでくれる秀一さんならば、どんなセックスをするのだろう。私に対する態度が変わっているならば、セックスの仕方が変わっていてもおかしくはない。何がそんなに面白いのか、秀一さんはアルファベットばかりが並ぶエンドロールを真剣に眺めている。秀一さんは今のセックス、どう思った? そう聞こうとして、私は正気を取り戻した。私は一体何を聞こうとしているのだろう。そんなことをしては、誘っているとか、痴女だと思われてしまうかもしれない。映画が終わったのを皮切りに、私はDVDプレイヤーからディスクを取り出したのだった。

結局、映画を観て日曜日は終わった。私は買い出しに行って秀一さんに必要なものを購入し、その間に秀一さんが夕食を作ってくれていた。昨日のように二人で夕食を食べ、私から風呂に入り、秀一さんを待つ。秀一さんが出てきたところで就寝の挨拶を交わすだけなのだからわざわざ待っている必要もないのだが、秀一さんは決して「先に寝ていていい」とは言わないのだった。私がテレビを見ながら待っていると、秀一さんが後ろから現れた。

「待たせたな」

秀一さんの髪は既に乾いていて、後は寝るだけなのに、そう言われるとこれから何かするようで恥ずかしくなる。その気持ちを吹き飛ばすように私は別のことを考えた。

「そういえば、秀一さんってどこで寝てるの?」
「ソファだ」

予想はしていたが、やはり秀一さんをソファに寝かしておくというのは申し訳ない。

「布団一式買ってこなきゃ……」

そう呟いた私の後ろから顔を出し、秀一さんは囁いた。

「布団を買って、どこに敷くんだ?」

その言葉に私の動きが止まる。居間には布団を敷くスペースはないし、この安アパートに余っている部屋などない。となれば、残りは私の寝室のみだ。混乱する頭に、昼間観たアイリスとケニーのセックスが蘇る。あの二人のように、私達も――。
私の緊張が頂点に達した時、秀一さんは白状するように言った。

「冗談だ。これからもソファで寝るよ。少しからかいすぎたな」

そう言って掛布団を取りに行く背中に、私は不思議と物足りなさを覚えてしまうのだった。