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兵庫でのあのデートとも言えない地元巡りを挽回するべく侑はデートプランを考えた。このまま近くの店で食事をして、駅前のイルミネーションを見るという計画は咄嗟に立てたにしてはなかなかだと思う。実際名前は高校生時代に戻ったかのように素直な表情で料理を美味しいと褒めていたし、デートの間楽しそうでもあった。今、二人で並んでイルミネーションを眺めながら、侑は二つのことに揺れている。隣の名前の手を、繋ぐか繋がないかだ。

もはやこの後ホテルや名前の家に行くという選択肢は消えていた。今日は初めて名前がセックス以外のことに誘ってくれた日だし、そもそも恋人になりたくて名前を試合に誘ったのだ。今日のデートに、セックスはいらない。だが、侑を異性として意識させるような何かが欲しい。

「あっちにも行ってみようや」

下手な誘い口だろうか。侑が向こうの方を指差してからもう片方の手で名前の手を握ると、名前も笑って握り返してくれた。なんだか名前に転がされているようで腹が立つ。名前はそんな小悪魔かお姉さんのようなキャラではなかったはずだ。もっと清楚で女の子らしい、可愛い少女であったはずだ。

そこまで考えて、侑は思い出に補正が入っていることを悟った。好きな女の子のことを考えれば、誰だって少しは補正が入るはずだ。

気付けば夜は更け、別れの時間が近付いていた。今日はセックスはしないことは名前も察しているらしかった。

「なんかこうしてると、侑彼氏みたいやわ」

名前が何気なく発したその一言に、侑は言葉を失う。今がチャンスなのだろうか。攻めるべきか。本当の彼氏にさせてくれと、言うべきか。
名前はそんな侑の葛藤など知らないように、自嘲気味に言った。

「こんな所週刊誌に撮られたら有名人になってまうかもしれへんな、宮侑の熱愛発覚て。私は恋人なんか不倫相手なんかセフレなんか、よくわからんけどな」

名前はただ自分の足元を見ていて、何を考えているのかよくわからない。そのまま駅へと歩き去って行こうとする名前に、侑は何も言えなかった。今が最大のチャンスだった。折角イルミネーションまで見に来た。今日はセックスもしない、健全なデートだった。

気付けば侑は走り出し、名前の後を追った。突然後ろから走ってきて自分の手を掴んだ侑のことを、名前は驚いたように見ていた。

「好きや」

侑は言った。もうこの一帯にイルミネーションはなく、あるのはただ人混みと無機質な地下鉄の改札だった。あの頃思い描いていた理想の告白とはまるで違った。それでも侑は言うしかなかった。

「ずっと好きやった。高校の頃から。酒の勢いでお前を抱いてほんま後悔した。セフレって位置に甘えとった。でも、やっぱちゃうねん。お前のこと、ちゃんと好きやって言いたい」

顔立ちが整っている自負はある。女にもモテてきた。今はファンだっている。それがこんなムードもへったくれもない場所で、馬鹿正直に自分の気持ちを言うだけなんて、自分でも情けないと思う。でも侑は名前の前になると、ただの男にしかなれないのだった。

名前はそんな侑の手を取ると、柔らかく笑って言った。

「そう言ってくれるの、ずっと待っとったよ」

「へ?」
「好きや、侑」

その時、侑は自分達の物語が既に始まっていたことを知ったのだった。