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「穂花さん料理できやすか」
「で、できますけど…」
朝早くインターホンの音で目が覚めた。扉の向こうにいたのは眠そうな顔をした総悟くんだった。私の顔を見るや否やそんなことを言う総悟くんの話はこうだ。いつも来てくれている女中さんが二人ほど風邪をひいてしまったらしく、急に人手が足りなくなったらしい。代わりの人を探したけれど見つからなくて私のことを思い出したと言われた。
「で、でも私そんな大人数の料理とか作ったことないよ…?」
「穂花さん一人にお願いするわけじゃないので大丈夫でさァ。今日一日だけでいいんで」
真選組の人達にはひったくりの時にお世話になったし何かお礼をしたいと思っていたから二つ返事で了承したけれど女中さんの仕事なんて一度もしたことがない私は不安だった。それに気付いたのか、総悟くんは出かける準備を終えた私にへらりと笑ってくれた。
「まあ、適当にやってくだせェ。賃金は全部土方さんが支払いますから」
「ふふ、土方さんが?」
「そうそう。ぼったくってやろーぜ。いくら貰いやすか」
「土方さんにそんなことできないよー」
玄関の鍵を閉めながらそう言って笑うとつまらなさそうな顔をして歩き始めた。総悟くんとはたまにお店でいろんな話をしていたからか仲良くなれた気がする。だから、不安でたまらないけれど何か役に立てればいいなと思う。総悟くんに女中の仕事について教えて貰いながら、真選組の屯所までの道のりを進む。
「そういえば、万事屋の旦那には会えたんですかィ」
「…会えたよ。でもやっぱりだめですね。皆みたいにあの人と関われない。どう関わることが正しいのかわからない」
あの時は、同じ空の下生きることができたならそれでいいと思っていたつもりだったけれど、きっと勘違いだ。本当は逢いたくて堪らなかった。もう一度この瞳にあの人を捉えたかった。関わるべきではないとわかっていても関わりたくなってしまった。
けれど、その方法が私にはわからない。
「旦那が何を考えてんのかは俺もわかりやせんが、アンタがしたいように旦那と関わればいいんじゃねーですか」
「私が、したいように…」
「さ、そんなことより今日は女中お願いしやすぜ」
あの人に関わる人達と居れば、いつか見えてくるのかな。
「あなたが穂花さんでしたか!ひったくりの犯人捕まってよかったですねェ!!」
「あの節はありがとうございました。本当に助かりました」
「いやァあなたが行動したからですよ!小さな勇気を持つことが一番大事なことです」
「…そうですね」
屯所に着いて最初に向かったのは近藤さんの所だった。真選組局長である近藤さんはこの前の印象通り素敵な人だった。豪快に笑うその姿は、会うのは二度目だというのに安心感を与えてくれる。周りにいる人を自然と笑顔にさせるそんな素晴らしい人。
今日、来てよかったなぁ…
女中さんに一通り仕事の説明を受けてまずは朝食から取りかかった。前に来た時はあまり人を見かけなかったけれど、食堂には沢山の隊員さん達で溢れていて驚いた。いつもは4人で回す仕事を今日は私を入れて3人しかいないらしい。
「じゃあ穂花ちゃんはとりあえず配膳をお願いしていいかい?」
「はい!わかりました!」
次から次へとくる隊員さんにひたすら料理を渡していく。初めて見る私に驚いた反応を見せる人もいたけれど挨拶をする暇もないほど忙しかった。こんな大変な仕事をいつも数名でこなしていることに尊敬しつつなんとか必死についていく。少し落ち着いて来た頃に土方さんと近藤さんがやってきた。
「よォ。今日は急にすまねーな」
「いえいえ。すごく楽しいです」
「穂花さんみたいに可愛い方が来てくれたからか隊士達も盛り上がってますよ!!」
「そんな…。物珍しいだけですよきっと」
「いやいや!このまま女中として働いて欲しいくらいですよ!」
「ふふ、ありがとうございます。今日一日頑張りますね」
「なんかあったらバーさん達に聞けよ」
「はい、わかりました」
朝食を持って席に向かう土方さんと近藤さんを目で追いながら次に来る人のための準備をしていく。最近気持ちが落ちていたから、違う仕事をして普段関わらない人達と話すのは気分転換にもなってちょうど良かった。それに、あの人が好きなこの街で知り合いが増えていくのはやっぱり嬉しい。
どんなに矛盾だらけでも結局私は、この街から離れることなんてできそうにないんだ。
朝食の時間が終わり、昼食の下ごしらえを手伝った後、洗濯物をお願いされた。沢山いる隊員さんたちの制服や着物たちを順に洗濯機に入れていく。中には血がこびりついたものもあって真選組という仕事の大変さや怖さを改めて実感した。これは返り血なのかはたまた本人の血なのかわからない。血で汚れてしまっているものは洗濯機を回している間に手洗いしようと別の籠にまとめて抱えて歩く。
重たい。これはきっと服の重さだけじゃない。
「そんな物持ってどこに行くんですか」
洗える場所を探しながら屯所を歩き回っていると竹刀を片手に持った総悟くんが話しかけてきた。
「あ…えっと、血が取れないから手洗いしようと思ったんだけど…」
「あぁ、昨日のやつか。じゃああっちに洗い場あるから行きやすか」
さっと私が持っていた籠を取り少し前を歩き出した総悟くんは、神楽ちゃんや新八くん達が話していた人物とは別人のように思える。少し意地悪な所もあるけど優しくて気の利くいい子だと思うけれど、出会ったばかりだし私に気を遣ってくれているのかな。
「行かねェんですか?」
「あ、ううんっありがとう」
総悟くんは一番隊の隊長だと言っていたから、誰かをその剣で切ることもあるんだろう。まだ18の男の子がそんな危険な場所で江戸の為に闘っていることに感心より心配の方が勝る。きっと恨まれることだってある。苦しい時だってあるはず。
けれど、あんみつを食べにくる総悟くんがそれを感じさせたことは一度だってない。洗い場に着いて持ってくれていた籠を渡されて、またこの重みを実感した。きっとこれは、真選組や真選組と闘った人達の命の重さなんだ。
だからこんなに重たいんだ。
「沙衣さんどうかしやしたか。もしかして厠ですかィ?厠ならここをまっすぐ行って…」
「ちっ、違うよ!…総悟くんは、真選組は本当にすごいね」
「?…どういう意味でィ」
この重みといつも闘っているんだ。
真選組も、神楽ちゃんや新八くん達も。
ーーあの人も。
「…ううん、やっぱりなんでもない。持ってくれてありがとう」
訝しげな表情する総悟くんを苦笑いで誤魔化しながらなんとか見送って血のついた服を洗い落としていく。
服についた血が落ちても、心に残った何かは決して落ちることはないんだ。それでもきっと、その命を背負ってまた戦場に出向く。どんなに危険でも己の意思を曲げることなんてない。自分が決めた道を走り続けている。私が再び来たこの江戸で知り合った人たちはそんな生き方の人たちばかりなんだ。
だから、眩しくて仕方がない。
羨ましくて仕方がない。
銀時さん。
あなたはその先頭をずっと走っているんだね。
私もそっちに行ってみたいと言ったら、
あなたは何て言いますか?