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土方さんが言おうとしてやめた言葉の続きは、あれからどんなに考えてもわからなかった。初めての仕事で身体は疲れているはずなのに目が冴えてしまって、ほとんど眠れないまま朝が来た。

また今日も私は、暗闇の中から眩く燃える太陽を見つめることしかできない。




「穂花ー!!!助けてほしいアル!銀ちゃんが!銀ちゃんがァァ!!!!」
「え…?」

仕事中に血相を変えてやってきたのは神楽ちゃんだった。いつもはあまり見ない真剣な面持ちにあの人になにかあったのかと血の気が引いた。あんなことがあってすぐだから気まずいけれどそんなことも言ってられなくて親父さんに頼んで上がらせてもらい、早く早くと急かす神楽ちゃんと一緒に万事屋に向かった。


「か、風邪?」
「そうなんですよ。それで穂花さんに銀さんのこと看病していて欲しいんです」

一体何があったのかと万事屋で私を待っていた新八くんに聞けば、朝起きたら酷い熱で寝込んでしまっているらしい。それでも仕事に行こうとする彼をなんとか寝室に押し込んでお妙ちゃんを呼び出して相談したら私を呼べばいいと言われたらしい。

なるほど。お妙ちゃんならやりかねない。私とあの人のことずっと気にしてくれているようだし…

「…新八くんと神楽ちゃんは?何処かに行くの?」
「今日は珍しく依頼が2件も入ってるアル。銀ちゃん診てる暇ないヨ」
「…お妙ちゃんは?」
「姉上なら、」

新八くんはそう言いながら寝室がある襖を見た。お妙ちゃんが看病しているなら私は来る必要がなかったんじゃないだろうかと思っていると悲鳴と怒声が聞こえてきた。

看病してるんだよね。

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「逃げてないでさっさと食いやがれボケェ!!」
「そんなダークマター食えるわけねェだろ余計悪化するわ!!!!!」

新八くんと神楽ちゃんの3人で顔を見合わせてから怖いもの見たさにゆっくりと襖を引いた。そこには、風邪を引いているはずの彼と看病しているはずのお妙ちゃんが攻防している姿があった。

……看病してるんだよね?

「あ、姉上!銀さん!アンタら何やってんですか!」
「アネゴ穂花連れてきたアルーもう仕事行けるネ!」

彼の口に土鍋に入った黒い物体を無理矢理突っ込もうとしていたお妙ちゃんはそんな二人の声で視線を此方に向けた。あ、なんだか何かを企んでいるようなそんな怪しい笑顔を向けられている気がする。彼もお妙ちゃんと同じようにゆっくりと此方を見て、眉間にシワを寄せた。来て欲しくなかったのかな。なんとなく彼の心情が読み取れて何も言えないでいるとお妙ちゃんが明るく弾んだ声で言い放った。

「じゃあ、後は穂花さんにお任せしましょう!ね、穂花さん」
「え?!…あ、え、うん」
「だーから!こんなの寝てりゃ治るの!わざわざコイツ呼ぶ必要ねーだろ!なんで呼んだんだよォ…もーお妙ちゃんお願いだから空気読んでよお前なら読めるだろキャバ嬢なんだからァ…」
「あら銀さん。ずーっとうわ言で穂花さんのこと呼んでましたよ?だから呼んであげたのに」
「は、はぁ?呼んでねーから気のせいだからァァ!!」

お妙ちゃんは彼の言葉を笑顔で黙殺して出かける準備を始めた。神楽ちゃんと新八くんも仕事に行かないといけないようでバタバタと準備をしていく。彼と二人で寝室から居間に出て引き止めてみるが全く聞いてくれない。それどころかとんでもない一言を残して万事屋を出て行ってしまった。

「神楽ちゃん、今日は家に泊まらせますから。ゆっくり看病してあげて下さいね、穂花さん」


笑顔でゆっくりと引き戸を閉めていく彼女のことを改めて恐ろしいと感じた。




「はぁ…穂花」
「えっ、あ、はい」
「お前帰っていいよ。これくらいの熱、別にどうってことねーから。寝てりゃー治るよ」

衝撃の台詞で玄関から動けないでいると重たいため息と共にそんな言葉が彼の口から落とされた。正直、帰ってしまいたい。こんなに気まずい状況にいたい人間なんていない。でも、どうってことないという彼の表情はいつもよりもどこか気怠そうで寂しそうだ。この胸の中にあるモヤモヤの答えに頭が理解するよりも身体が先に動いていた。彼の手を引いて寝室まで連れていって無理矢理布団に押し込んだ。

「ちょ、穂花ちゃーん?お前俺の話聞いてた?」
「たまご粥、作るから…食べるでしょう?」
「……食う」


昔もあったな。同じようなこと。

その時も確かたまご粥を作った気がする。珍しく美味しいってちゃんと言ってくれたからよく覚えてる。昔と同じように彼の好きな味付けでたまご粥を作っていく。

甘い物が大好きだからと少しだけ甘めに作ったたまご粥を風邪でしんどいはずなのに全部食べてくれたあの時だった。彼のことが好きだと気付いたのは。いつも助けて貰ってばかりで私は何も出来なかったから少しでも彼の役に立てたことが嬉しくて、美味しいって言ってもらえたことが嬉しくて、もっともっと、この人に近づいてみたくなった。

でも、未だに思う。どんなに好きな物を知っても、為人を知っても、私と彼の心の距離が縮まることはない。


「坂田さん?」

たまご粥を作り終えておぼんに土鍋ととんすいを乗せて持って行くと、彼は苦しそうに眠っていた。やっぱり風邪酷いんだ。畳におぼんを置いて、額に乗せてあったタオルで汗を拭う。水を含ませなおしたタオルをもう一度額に置くと幾分表情が和らいだ気がして安心した。首筋に手を当てるととても熱くてよくこんな状態であんなに暴れたりできたなぁと呆れた。
冷え性な私の手が冷たくて気持ちいいのか荒かった呼吸が少しだけ落ち着き、再び深い眠りに落ちていくのを見届けてから薬を探しに部屋を出てそっと襖を閉めた。



どんなに気まずいと思っていても、拒絶されても、関わってはいけないとわかっていても、彼を放って帰るなんてことは私には出来そうにない。