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今日は店をやっている親父さんが風邪を引いてしまって急に仕事がなくなった。かぶき町に戻ってきて働くようになってから初めての休日だ。買い揃えないといけないものが沢山あってショッピングに来ていた。家電量販店に行って必要なものを選んでいく。必要最低限は働き出す前に揃えていたつもりだったけれど、暮らしだすとあれがないこれがないとなってしまうのは引っ越しあるあるじゃないかな。どれがいいのかわからず店員に話しかけると、その人は昔よくお世話になった橋さんだった。

「おや!穂花ちゃんじゃないか!戻って来たのかい?」
「橋さん、ご無沙汰しています。そうなんです、またかぶき町で住むことになって…」
「いやァびっくりしたよ。更に別嬪になって!またすまいるで働くのかい?」
「いえ…もう年齢も年齢ですし。甘味処さちで働かせて頂いているんです」

こうやって昔から知っているひとに会うととても安心する。橋さんは私がすまいるで働き出した頃からずっと指名してくれていた人だったから尚の事だ。すまいるで働いていた時期の話に花を咲かせながら一緒に商品を選んでくれた。昔のよしみだと言っていろんなサービスをしてくれた橋さんにお礼をして店を出た直後男の子が駆け寄って来た。あの人と一緒にいたメガネの少年だった。

「あなた、坂田さんと一緒にいた…」
「志村新八と言います!突然すみません!あの時挨拶もできなかったので…」
「え…?」

挨拶が出来なかったからわざわざ私を探して話しかけてきたのか。あの人の側にいるだけのことはあるなと思った。見た目も性格も全然違うように思うけれど、あの人がいう魂の部分で、この子はあの人のコピーみたいなものなんだろう。だから一度しか会っていない、素性も知れない私を気にかけていたんだろう。名を明かすつもりはなかったけれどこの子に影響されてか私も自己紹介をしようと両手いっぱいに持った荷物を地面に置いた。

「新八ィィィィ!!!!!!」

顔を上げようとした時、甲高い女の子の声と目の前に大きな白いもじゃもじゃな物体が現れた。その物体に押し潰されている少年の名前を呼んでいたからきっとどちらも新八くんの知り合いなんだろう。物体の上に跨る女の子を見上げると、蒼く綺麗な瞳と視線が合わさった。

「あれ?!お姉さんメガネ見なかったアルか?!」
「え、メガネ?メガネを掛けた新八くんじゃなくて…?」
「銀ちゃんが新八はほとんどメガネで出来てるって言ってたアル。だからアイツはメガネヨ」
「だからなんでメガネが本体になってんだァァァ!!!!」

なんとか大きな白いもじゃもじゃな物体の下から出た新八くんはチャイナ服を着た女の子と言い争いをし始めた。ああ、あの人の周りはこんなに賑やかになったのか。私もこんな風にしていれば、あの人を寂しさの渦から掬い上げてあげられたのかな。何か変わっていたのかな。言いようのない感情が溢れて言い合っている2人から目を逸らし、いつの間にか隣にいた白いもじゃもじゃな物体を見た。


犬だったんだ。


「あ!定春噛んじゃダメだヨ!」
「あっ、えっ、噛むの?」
「ああああああ、す、すみません騒がしくしてしまって…!」

新八くんは私がいることを思い出したのか、すごい勢いで頭を下げてきた。そんなに気にしなくてもいいのになぁ。安心させるように笑顔を作り、先程しようとしていた自己紹介をする。

「気にしないで?すごく仲良しなのね。…私は水城穂花といいます。坂田さんとは昔馴染みなの。この間は挨拶できなくてごめんね」
「あっ、いいいいいえ!僕の方こそすみません!なんだか入り込めなくて…!」

私もあの人も新八くんのことに触れなかったから、新八くんもそれを感じ取って黙っていたのだろう。でもきっとそのことに罪悪感を感じてあの人がいない所で私に話しかけてきた。すごく優しい子なんだろうな。私が話し出してから黙っていた女の子は白いもじゃもじゃな物体、定春と呼ばれていた犬から飛び降りて目をキラキラさせながら話しかけてきた。


「お姉さん銀ちゃんの友達アルか!あの天パこんな美人どこで見つけてきたんだヨ〜」
「ふふ、ありがとう。友達、ではないんだけどね。あなたのお名前は?」
「神楽だヨ!じゃあ銀ちゃんの彼女アルか?!昔の女アルか?!」
「え?!そ、そうなんですか?!」


やっぱり女の子の方がそういう勘が良いらしい。どうなの?と私の手を掴んで聞いてくる彼女は実に可愛らしい。私もこれくらい可愛らしく振る舞えたらよかったのになぁ。なんでも話したくなっちゃう。でも、あの人が話していない以上、私から話すわけにはいかないから気づかれないように笑顔を貼り付けて否定の言葉を口にする。するとちぇーっと言いながら道に落ちた石を足でコロコロと転がし始めた。私とあの人が付き合っていてもおかしくないと思ってもらえたことが少し嬉しくて握られていた手を軽く握り返して蒼い瞳をまっすぐ捉える。


「ごめんね、ただの昔働いていたお店のお客様なの。万事屋としてもお世話になったことがあるから親しくはしていたけどね」
「ええええー穂花、銀ちゃんの彼女になれヨ。こんな美人な女アイツが放って置くわけないアル」

先程会ったばかりだというのに随分気に入られたものだ。こんな私にもニコニコと笑いながら話してくれる神楽ちゃんと新八くんが、あの人の側にいるなら絶対に大丈夫だと確信した。あの人が関わる人達とは会わないようにしようと思っていたけれど、心を満たす暖かさが会ってよかったよと教えてくれる。神楽ちゃんの頭をゆっくりと撫でたらぎゅーと抱きついてくれた。可愛いなぁ。

「あの人の彼女には、なれないよ。坂田さんもそんなこと望んでないから。ごめんね?神楽ちゃん」
「んーー。でも、今度万事屋に遊びにきてヨ。もっと穂花と話したいアル!」
「うん、ありがとう。神楽ちゃんも私のお家に遊びに来てね。あ、新八くんも。お店にも食べに来て?ご馳走するから」

それじゃあ、と地面に置いていた荷物を持って帰ろうとしたら家まで運ぶのを手伝うと言ってくれた。その好意に甘えて一緒に私の家まで荷物を運びながらいろんな話をした。新八くんや神楽ちゃんがあの人と出会った時のこと。あの人といるといつも変なことに巻き込まれること。給料を貰っていないこと。そのくせ自分はパチンコや飲みに行ってばかりだということ。二人から出てきたのはほとんどあの人の悪口だったけれど、どれだけ好きかは聞かなくてもわかった。



よかった。こんな素敵な人達に囲まれていて。
もう独りじゃないんだね。



本当に、よかった。