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最近よく起こること。

携帯に非通知の電話が掛かってくる。拒否設定にしていても着信履歴は残るから、いつ、どれだけ、掛かってきたのかわかる。その全てが私が一人でいるときで、ああ常に見られているんだなと他人事のように思っていた。これだけ毎日掛かってきていると感覚も麻痺してきて、怖いのか怖くないのかさえもわからなくなってくる。まあ、そのおかげで他の人に気づかれないように普通に振る舞えるけれど。

そういえば、初めてストーカーされていることに気づいてから一ヶ月以上が経とうとしていた。

ストーカーされていると言っても、今まではただ見られているだけだった。どこにいても誰かに見られている感覚。それはとても不気味だし怖いけれど、それ以上は何もしてこないからその程度だった。

なのに、


ドンドンドン

「……っ、」

坂田さんに家まで送ってもらった日からずっと扉を叩かれるようになった。長い時だと何時間も扉を叩くその音に恐怖心を煽られる。なんで、どうして、そんな言葉が頭の中で木霊する。坂田さんと一緒にいるところを見られてしまったからかな。やっぱり、あの人に助けを求めなかったのは正解だった。きっと坂田さんは、優しいからグチグチ文句を言いながらも私を助けてくれるから、何をしでかすかわからないストーカーと私のせいで危険な目に遭わせてしまうかもしれない。それだけは絶対に嫌だ。

月の光も入らない暗闇に独り、ドンドンと鳴り響く音を聞きながら何も起きないことを願うことしかできないけれど。





(ほとんど寝れなかった…)

昨日はいつもよりも長く、扉を叩く音が止んだ時には空が薄っすらと明るくなり始めていた。まるで怒りを扉にぶつけているような音は日に日に大きくなり、街中を歩く時に感じる視線も強さが増した気がする。

どうすればいいんだろう。どこの誰かもわからない。どうしてこんなことをするのかもわからない。


沢山の人で賑わうかぶき町を歩いていても、全員がストーカーの犯人に見えてきて足取りは自然と重くなる。ちょっとした物音にも敏感に反応してしまって周りの人から見れば私はすごく挙動不審だと思う。心を落ち着かせるように大丈夫、大丈夫と呪文のように唱えながらすまいるまでの道のりを歩いていると背後から肩を叩かれた。

「ひ…っ、」
「えっ、穂花?!」

恐怖が極限まで高まってその場に蹲み込んでしまった。その直後に聞こえた声はとても聞き慣れた声で、伏せた顔をそっと上げるとそこには驚いた様子の咲さんが立っていた。

「さ、咲さん…」
「ご、ごめんね!そんなに驚くとおもわ、なく…穂花、アンタなんで泣きそうな顔してんの?」
「ごっ、ごめんなさい…!び、びっくりしすぎて、その、」

ストーカーかと思って驚いたとは言えなくてなんとか誤魔化そうとしてみたけれど咲さんの目は鋭く私を捉えて離さない。

「穂花、本当に?違うよね」

ああもう誤魔化せない。

「最近、ストーカーに遭っていて…」
「はあ?!なんでもっと早く言わないの!とりあえずすまいるに行こう。そこで話聞くから。ね?」
「…はい」

私が不甲斐ないせいで咲さんを巻き込んでしまう。咲さんに何かしてきたらどうしよう。
そんなことばかりが頭を巡り、賑やかなかぶき町にいないみたいに音がどんどん遠のいていく。私はどうすればいいんだろう。本当のことを話していいの?頼っていいの?頼れば咲さんが危険な目に遭ったりしてしまうんじゃないの?ああ、どうしよう。

「…穂花!」
「ぅ、わっはい!!」
「なにぼーっとしてんの。そんなに震えて…ほら、咲さんが手握っててあげるから心配しないの」
「……ありがとう、ございます」

優しくて暖かくて、本当に素敵な咲さんが危険な目に遭うなんて絶対に嫌だ。なんとか誤魔化す方法を考えよう。そう心に決めてすまいるまでの道のりを咲さんと手を繋ぎながら歩いた。


「なっなっなっストーカー?!え?!穂花ちゃんなんで言わなかったのォ!!!」
「…すみません」
「その話もうしたから、店長。とりあえず対策考えましょうって」
「あ、はい」

すまいるに着いて、咲さんと店長の三人で話をする。店長にまで知られて、結局沢山の人に迷惑をかけてしまうことに気を落としていると、妙案を思いついたらしい咲さんが明るく弾んだ声を上げた。

「あっ!銀さんにボディーガードしてもらえばいいじゃない!」
「えっ?!」
「あぁ!銀さんね!いいねぇ」

予想外の提案に驚きを隠せないでいると店長も咲さんに乗っかりだした。このままでは坂田さんにまで知られてしまう。せっかくなんとか隠していたのに、きっとなんで言わなかったんだと怒鳴られ呆れられる。

「で、でも坂田さん引き受けてくれないと思いますけど…」

そうやって遠回しに拒否しようとしてみたけど、店長の一言で咲さんはよし来たと坂田さんに電話をかけてしまった。誤魔化そうって、決めてたのになぁ。


「ちょうどツケも溜まってきたしそいつをチャラにするって言ったら簡単に食いついてくるだろうさ。それに…穂花ちゃんのためなら飛んでくるだろーよ」




坂田さんは、飛んできてくれるのかな。