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「はぁ?ボディーガード?」


あれからいろいろ坂田さんが来ることを阻止してみようと試みたけれど、やはり店長と咲さんが考えを変えることはなく、坂田さんはすまいるにやってきた。

面倒臭そうな顔をした坂田さんは、咲さんがビールを注がれさあさあとどんどん飲まされ程よく酔ってきたところで咲さんがボディーガードの話を切り出した。あれだけ飲んで機嫌良くなっていても、話を聞いた途端この不機嫌さ。そりゃそうだと思った。面倒なこと嫌いそうだもの。

「穂花がストーカーに遭っててね?でも仕事を休むわけにもいかないし…行きと帰り一緒に行ってあげてほしいのよ」
「ストーカー?…誰に」

ジトっとしたその瞳は苛立ちに満ちていて、やっぱり話すべきじゃなかったと後悔でいっぱいになった。私の奥底を探るように見つめてくるその瞳が怖い。

「穂花、お前に聞いてんの」

ああ、ここから逃げ出したい。
でも知ってしまった以上、きっと坂田さんは逃してくれない。咎めるような目をした坂田さんから目を逸らして、これまでのことを話した。

「誰かは…わからなく、て。帰り道に追いかけて…来たりとか…人混みに紛れててもずっと見られている気がして…」
「それだけか?」
「…っ、」

家に来ていることまで言ってしまったら、坂田さんはわからないけれど、店長と咲さんはどうにかしようと考えてくれるだろう。もしかしたら家においでと言ってくれるかもしれない。そんなことになったら、ストーカーが咲さんたちにまで危害を加える可能性だって大きくなる。それだけは避けたくて、言わなかったのに坂田さんはそんなことお見通しとでも言うような顔をして問いただしてきた。

「それだけかって聞いてるんですけど。まだあんだろ、どうせ」
「……」

坂田さんのピリピリした空気を感じてか、咲さんも店長も何も話そうとしない。この空気を変えるような話をしてほしいのに、私が話すのをじっと待っている。

ああやだな、この空気。

「なんかあったら言えつったろ」

この空気が痛くて、こんなに迷惑かけていることが嫌で、でも助けてほしくて、いろんな感情でいっぱいになって俯いていた頭はどんどん下がっていってそのうち自分の足しか見えなくなった。
ガタンと音が聞こえて、咲さんの「ぎ、銀さん?!」という声と同時にドスドスと激しい足音が近づいてきた。顔を上げようとした瞬間に勢いよく顔を持ち上げられて目の前が坂田さんでいっぱいになった。

「いっ、いひゃいっ」
「てめーはいっつもそれか。助けてやるつってんのにだんまり決め込むんじゃねェよ。助けてほしいンだろーが」

頬を左右に引っ張られ、顔を下げたくても持ち上げられて強制的に目線を合わせられる。その瞳は、怒っていると訴えているように見える。この前の、襲われそうになっていたところを助けてくれた時とは全然違うその瞳に、やっぱり怒っているんだと思った。怒らせたくなかったのに。誰にも迷惑かけたくないのに。

「ご、ごめ、…ぃたっ」
「穂花っ」

突然手を離されてしまったせいで体は重力に従って床に落ちていった。駆け寄ってきてくれた咲さんが「銀さんそこまで怒らなくてもいいでしょ?穂花だって悩んでたんだから」と宥めるような声が聞こえる。坂田さんの視線が鋭くこちらに向けられていることもわかる。けれど、私には顔を上げて坂田さんにもう一度謝ることもあの時のようにお礼を言うことも出来そうになかった。


なんでこうなってしまったんだろう。

自分でなんとかできる力があれば、誰にも迷惑かけずに済んだのに。怒らせることも、心配かけることもなかったのに。やっぱり私は、自分が嫌いで嫌いでたまらない。私なんかをストーカーしてなんになるの。こんなつまらない私を、どうしようもない私を。みんな、私のことなんて放っておいてくれたらいいのに。

「あーもうめんどくせェな」

坂田さんのそんな声が、近くにいるはずなのに遠くの方で聞こえた。面倒だと思うなら、断ってくれたらいいのに。そんなことを考えた後、私はいつでも他力本願だなと思った。


自分でなんとかしたい。

誰にも気づかれたくない。

一人でいたい。


そんなこと言っているくせに、いつだって他人に頼ってばかりだ。今だって、坂田さんや咲さんたちがなんとかしてくれるんじゃないかって心のどこかで期待している。

わかってる。私が頼らなければ、上手く隠すことができたなら、上手く生きることができたなら、誰もなにも言ってこないことくらいちゃんとわかってる。



「穂花」



ーーけれど、


「すまいる無料券20枚な」



私はどうしても、面倒臭そうにしながらも差し伸べてくれるその手を求めてしまうんだ。