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とりあえず今日は帰るよう店長と咲さんに説得され、坂田さんと一緒に帰路に着くことにした。まだ日は完全に沈んでいないから、辺りは薄暗い程度だった。でも、私の心は真っ暗だった。知られたくなかった。自分でなんとかしたかった。迷惑かけたくなかった。それと同じくらいに知ってほしいし、助けてほしい気持ちもあるのも確かで。

だって、なんとかするってどうやって?

私はこの状況を改善する術を持っていない。誰かに助けて貰うしかなす術がない。それなら完全に頼ればいいのに、ほんの小さな意地がそうさせず、助けて貰う立場だというのに全てを語ることはできなかった。なのに、坂田さんはあれ以上何も聞いてこない。いつもは私の少し前を歩くのに今日は何故か少しだけ後ろを歩いている坂田さんの視線が痛い。それは、ストーカーが現れないように見張るためなのか、結局全てを話さなかった私を見透かそうとしているのか私にはわからなかった。


あの、ネオンに反射して輝く髪が、目の前にあったら少しはこの鼓動も落ち着く気がしたのにな。

あるのはただの、色とりどりの光。街中を歩いていくうちに空はどんどん暗くなり、人工的な光が色濃くなった。それは、この世界の人の誰よりもずっと見慣れている光。
この光だけが、唯一私を認めてくれている気がする。そう思っているはずなのに私はこの世界の人間じゃないと、告げてくるのもこの光で。

私はもう、どうやって逃げればいいのかわからない。でも、早くこの光から逃げたくて、少し早足で歩き始めるとそれに合わせて坂田さんも速度を速めてくれた。この前はたくさん話してくれたのに、今日は全然話そうとしてくれないのはやっぱり怒っているからなのかな。迷惑だって、心の奥底では思っているんだろうな、きっと。

早歩きのおかげで夜の街を抜け出したその先は街灯もない真っ暗な道だ。後ろからの月明かりの僅かな光が、道を薄っすらと照らしてくれるけれど、今はそんな暖かな光さえも私を責め立ててきているように思えて仕方がない。

月は、何も悪くないのに。

「穂花」

不意に呼ばれて、そっと坂田さんの方に体を向けた。月明かりとネオンの光のせいで坂田さんの表情はよくわからない。何を考えているのかまったく読めない。呼び止めたのに、そのまま口を開こうとしない坂田さんを呼びかけてみても反応がない。何かあったのかと体を完全に坂田さんに向けて、数歩だけ歩を進めてもう一度声をかけた。

「あの、さかたさ…」

もう一歩、足を踏み出した時に腕を掴まれ勢いよく引かれた。突然のことでバランスを崩した体は坂田さんの方に倒れてしまい、そのまま受け止められた。離れようと体に力を入れたのに私よりも強い力で押さえ込まれた。

あれ…もしかして、抱き締められてる?

身をよじると坂田さんの腕が腰に回ってやっぱり抱き締められてるんだと実感する。でもどうして?どうして坂田さんは私のことを抱き締めるの?肩口に顔を寄せられふわふわした髪が首を撫でてこそばゆい。

「さかた、さん…?」
「なぁ、…お前本当に行き帰り以外なんもねェの?」
「……」

やっと口を開いた坂田さんから出た声はなんだかとても悲しそうに聞こえた。言っても、いいのかな。頼っていいのかな。頼って欲しいと思ってくれているのかな。そう思うほどに坂田さんの声色はさっきとは違う。その声色が、言葉が、行動が、助けを求めることを望んでいると感じさせられる。

言葉を紡ごうと口を開いて、すぐに閉じた。



違う。違うんだ。言わないのは迷惑をかけたくないからでも、小さな意地でも、ひとりでなんとかしたいからでもない。

散々頼っておいて、眠れない夜から掬い上げてもらっておいて、たくさん温もりをもらっておいて、この人に自ら触れることが怖くてたまらないんだ、私は。

坂田さんの温もりは、真冬の海と一緒だ。
暖かいと錯覚させる。たしかに、暖かいのかもしれない。でも、ずっと浸かっていると身体はどんどん冷えていき、温もりなんてなくなってしまう。なのに外よりは暖かいと、海から出ようとも思わない。そうして身体は海にゆっくりと沈んでいく。

そうなることが、怖くて仕方ない。坂田銀時という海に溺れてしまうことが、心底怖い。

だから、触れられたいのに、手を差し伸べてほしいのに、自分からは触れたくないと思ってしまうんだ。

「……本当に、それだけです。心配かけてしまって、ごめんなさい」



そんな、最低な自分に、気づいてしまった。