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アイツと再会してから二月ほど過ぎた。
広くない町だしたまにアイツを見かけるがいつも俺と会わないことになんとも思っていないような顔して笑っている。
あれ?俺だけ?なんか気まずいなぁ会いにくいなぁとか思ってるのもしかして俺だけなの?
行かないつもりでいたが少しだけアイツの働く店を覗いてみようと一度店に行った時アイツはいなかった。親父に聞いてみるとひったくりにあって真選組の屯所に行っていると言われた。
アイツ、どれだけ厄介事引き寄せるんだよ。
でも奴らの所にいるなら腹は立つが大丈夫だろうと頭では理解していても足は勝手に屯所に向かって走り出していた。真選組の門で見張りをしていた隊士にアイツのことを聞いたが、話が回っていないのかなにも知らないと言われた。どうなったんだ。アイツは無事なのか。苛立ちから目の前の隊士の胸ぐらを掴みかけた時見知った顔のヤツが門の奥から歩いて来るのが見えた。
「旦那ァ何やってんですか。公務執行妨害でしょっ引きやすぜィ」
「ああああ総一郎君いい所に来てくれたァァ!水城穂花ってヤツ知らない?なんかひったくりにあった奴なんだけどよォ」
「ひったくり?あァ、土方さんが連れてた女のことですかね。ついさっき帰りやした。あと総悟です」
「…え。あ、そう」
「あの女旦那の知り合いですかィ?」
「あ、いや帰ったんならいいや。俺も帰るわ。じゃ」
なかなかアイツの情報が手に入らず余裕がなくなっていたのか、ついコイツに聞いてしまったことにすぐ後悔した。こんな野郎にそんな話をしたらいいネタにされるのはわかっていることなのにそれに気づかないほど自分が焦っていたことに驚いた。これ以上変なことを聞かれないうちに帰ってしまおうと翻し足を踏み出した瞬間肩を思い切り引き寄せられた。
「なんでィ旦那。そんなすぐ帰らなくてもいいじゃねーですか。どういう関係なのか教えてくだせェ」
「いや、ほら昔馴染みってだけだよ沖田くん。ただ大丈夫かなーって思っただけじゃん」
「そんな眉間にシワ寄せて必死な形相なのにですかィ。随分親しい昔馴染みなんですねェ」
「あーもううるせェェェ!!!!!アイツがいねェなら帰るつってんの!じゃあな!」
今度こそ万事屋に戻ろうと足を一歩前に出した時背後から悪魔のような囁きが聞こえたが聞こえないフリをした。
「その水城穂花って女、土方さんが送って行きやしたよ」
この前沖田くんが最後に放った言葉が気になったわけじゃないが、アイツがどうしているのか見ておこうと店に向かい戸に手をかけた時、中から二月前に久しぶりに聞いた声が聞こえてきた。どんどんこっちに近づいているのを感じて急いで少し離れた電柱に身を隠した。出てきたのはアイツと沖田くんだった。
オイオイ沖田くん何やってんの?何談笑してくれてんの?ドSキャラ何処に置いてきたんだよォォォ!!何を話しているかまではわからなかったが楽しそうに笑っているのだけはわかる。俺に話しかけてきた時はあんなにも泣きそうにしていたのに。そのまま、店には行かずに万事屋にのこのこと帰った。
それが昨日の話だ。
あれから何もやる気が起きなくて、まあいつもやる気なんてないけれども、いつも以上にやる気がなくてソファに仰向けになってジャンプを読み漁る。正直あまり内容は入ってこない。あれ、なんで俺こんなにショックなの?
「銀ちゃん銀ちゃん」
いやいやいやいや。ショックじゃねーから。別にアイツが誰と仲良くしたっていいじゃん。寧ろいいことじゃん。全然ショックじゃねーからァァ!!
「銀ちゃァァアアァァァん!!!!!」
「うるせェェェェ!!!なんっだよ耳元で叫ばないでくんない!銀さんちょっと考え事してるから放っておいてくんない!」
ソファの前に蹲み込んで大声を出した神楽の頭をジャンプで殴りつけて俺も怒鳴り返した。いつもならここで反撃があるはずなのに神楽は何もしてこず、頭を押さえながらこの前穂花と女子会したヨと言ってきた。
あれ、いつの間に仲良くなってんの?
確かにアイツからのバレンタインだと神楽からチョコを受け取った時に思ったが自分の知らないところでそんなに仲良くなっていたことには気がつかなかった。何話したとか聞きたいことは山ほどあるが、気にしてると思われたくなくてもう一度ジャンプを広げて興味なさげにふーんと返した。
「穂花、銀ちゃんと全然会ってないって言ってたアル。なんで穂花に会わないアルか?会ったら触れてしまいそうだからアルか?触れたらそのままヤっちまいそうだからアルか?」
「誰がお前にそんな言葉教えたんだよ」
いきなり核心めいたことを突いてくる神楽に動揺していることを悟られないように両手に持つジャンプを自身に近づけて顔を隠した。近すぎてジャンプに何が描いてんのかわからないがとりあえずこの情けない顔を見られたくなかった。俺が何も言わないのをいい事に神楽は畳み掛けてくる。
あぁもう。だから関わらせたくなかったんだ。
「穂花言ってたヨ。銀ちゃんが独りじゃなくてよかったって。どういう意味なの?穂花元カノじゃないの?昔は穂花とラブラブイチャイチャ同棲生活してたんじゃないの?違うの?穂花のこと弄んでたアルか?最低アルなクソ天パ」
「俺何も言ってねェだろーがァアアア!!!!」
どこで同棲してた話になったんだ?え、俺達同棲したことあったっけェェ?!ないよね?よく万事屋には来てたけど同棲はしてないよねェ?
神楽の衝撃的な発言に体を勢いよく起こして荒げた声で否定していたら台所から新八が湯呑みを持って入ってきた。なんだか顔が軽蔑の眼差しに見える。満員電車で女子高生にこの人痴漢です!って指差された時の周りの野次馬みたいな顔をしている。俺の向かいのソファに腰掛け湯呑みに口をつけた後深くため息を吐いて酷く冷めた目をして俺を見てきた。
「でも、僕が初めて会った時アンタ穂花さんのこと何も教えてくれませんでしたよね。なんかアバンギャルドな女だから関わんなとかよくわかんねー言い訳してましたよね」
「ちゃっ、そっ、だあアアアアアアア!!うるっせーよ!こうやって要らぬお節介焼かれるのが嫌だったんだよ!!!」
やっぱりお前もか新八ィィィ!!これじゃなんのためにあの時新八のことに触れないようにしたのかわからない。まるでずっと机の引き出しに隠していたものを母親に見られたような気分だ。テーブルに顔を伏せた俺のことなんてお構い無しに二人はどんどん話を進めていく。なんで自分の家でこんな居心地悪くならねーといけないんだよ。
「でも銀ちゃん穂花からもらったチョコ嬉しそうに眺めてたアル。ホントは会いたいんデショ?会えばいいのに。マダオの考えることはわからないネ」
「ほら、きっと会いにくいこと穂花さんにしたんだよマダオだから」
「え?何?なんで俺こんな責められてんの?いつの間にアイツと仲良くなってんの?銀さん置いてけぼりなんだけど」
余りにも責め立てられるから正直知りたくなかったが少し話を聞こうと顔を上げたと同時にインターホンの音が鳴り響いた。はいはい、と俺に暴言を吐くのをやめて新八が玄関に向かう。ガラリと引き戸が引かれる音が聞こえて、入口から聞いたことのある声が耳に入った。あれ、これもしかしてじゃないよね。
「あれ?姉上!どうしたんですか?」
「銀さんいる?」
「いますけど…銀さーん!」
あぁやっぱりお妙だった。もう何コレ。コントじゃんコレ。重い体をなんとか動かして玄関に向かうと何か企んでる時の爽やかな笑みを浮かべたお妙がそこにいた。
「なんだよ。まさかお前もアイツと知り合ってるんじゃねーよな」
「アイツ?…ああ、もしかして穂花さんのこと?勿論知り合ってますけど」
やっぱりお前もかいィィィィ!!!!
なんなんだよコレどういうことだよこれェェ!!
みんなで俺にドッキリでも仕掛けてるわけ?ここ数日で叫びすぎて声枯れるわいい加減。もうなんだか足の力が抜けてその場に蹲み込んだ。
ああ、このまま穴掘って消えたい…。
「穂花さん昔すまいるで働いていたんですってね、銀さん。今日人手が足りなくて穂花さんにお手伝いお願いしてるのよ」
蹲み込んで頭をガシガシと掻き毟っていた俺にお妙が飄々とした声色でそんな言葉を落としてきた。今コイツなんて言った?
「…は?え?ちょ、待って。アイツすまいるで働くの?」
「えぇ。今日一日ですけどね」
聞き間違いかと思い、顔を上げて聞き返してみてもその口唇から紡がれるのはさっき言われた言葉だった。
「何やってくれてんのォオオ?!!!?!アイツはなァ面倒事バキュームなんだよすぐ変な奴に絡まれたりするの!夜のかぶき町とか一番ダメなの!」
「あら、そんなに心配ならすまいるに来て仕事終わりまで待って送ってあげて下さいね」
その言葉に込められた意味を理解した時にはもうすでにお妙の策略にまんまとハマった後だった。コイツ、俺とアイツを会わせる為にわざわざ出勤前に来やがったのか。
「………え。ちょっと。お妙ちゃん?ちょっと待って。ねぇ」
こんな時間にお妙が来た時点で気づくべきだった。
「じゃあ私はもう行くわね」
「姉上、穂花さんによろしく伝えて下さいね」
「アネゴ行ってらっしゃいヨ〜」
待ってくれぇぇぇ!!
俺のこと無視しないでぇええぇぇ!!!!!
どんなに声を張り上げても誰もドッキリでしたとは言ってくれなかった。お妙は敷居を跨いだ所でくるりと振り返り、あの有無を言わせない笑顔を俺に向けた。
「銀さん。待ってますからね?」
アイツと再会してから二月ほど過ぎた。
今日俺は二月ぶりにまたあのすまいるでアイツと会うことになったらしい。