**. side:花井
昨日、席替えがあった。
アミダくじで決め、俺は廊下側の一番後ろの席だった。一番後ろの席になるなんて、と喜んでいたが前の席が水谷。俺は運が悪いようだ。
「はっないー、おはよ!」
「…部活ん時にも挨拶したじゃねーか」
「あ、そうだっけ?」
「…お前さ、いつも元気だな」
「えへへ」
へらりと笑う水谷にため息をつく。すると目の前のこいつはキョトンと首を傾げた。
「花井、何か疲れてる?」
「お前と喋ってるとな、」
「えーっ、酷い!」
水谷は大声で叫び、俺は若干目眩を覚える。朝っぱらから止めてほしい。
俺が水谷の相手をしてやっていると、教室のドアをガラガラと開けて阿部が入ってきた。
「あ、阿部、おはよ!」
水谷が俺の時と同様に元気よく挨拶する。普段ならここで阿部は「うるせー、クソレフト」と返す――返す筈なのだが、今日は違ったようだ。
「はよ、水谷!」
阿部は普段からは考えられないような爽やかな笑みを浮かべて挨拶を返した。その様子に俺は固まってしまった。さすがの水谷も驚いたようで目を真ん丸にしていた。
「花井もはよ!」
「ああ、はよ…」
若干顔がひきつりながらも挨拶を返すと、阿部は満足したようで自分の席に向かった。どかっ、と座り一限の準備なんかし出した。俺と水谷は顔を見合わせて不思議がる。
「おはよー、」
暫く阿部を観察していると名字が登校してきた。名字は阿部の隣の席に荷物を置く。そういえば、阿部の隣の席はあいつだった。
「阿部くん、おはよー」
「あ、ああ、はよ」
名字がにこりと笑って挨拶すると、俺らの時とは違い、阿部はどもりながら挨拶を返した。阿部の顔が僅かに赤いのは気のせいだろうか。
「ねえ、花井」
「何だよ」
「阿部ってさ、名字が好きなのかな」
「…あー、そうだな」
水谷の言葉に同意する。いつも三橋に怒鳴り散らしている、あの阿部があんな風に照れたりするなんて。何だか微笑ましかった。
090713
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