05. 屋上にて
千代ちゃんは野球部のマネージャーだ。昼休みはいつもグランドの草刈りをしているらしい。(この前は雨が降っていたから一緒に食べたけれど。)
今日も彼女は草刈りに行ってしまい、一緒に昼御飯を食べる人がいない。教室で一人で食べる気分ではなかったので私は屋上で食べようと席を立った。
屋上の扉を開けるともうすでに先客がいた。阿部くん。彼は一人でいた。珍しく(いや、別に珍しくもないけれど、)花井くんも水谷くんもいない。
彼は私の姿に驚いたようだった。ぽかんと口を開けてじっとこちらを見ている。話しかけようかと一瞬迷ったがここで話しかけないのも何だったから、私は扉の所から彼に話しかけた。
「阿部くん一人?」
「ああ」
「私も千代ちゃんがいなくて一人なんだ」
「そうか、」
「隣、良いかな」
そう言うと彼は黙ってしまった。私はすたすたと歩き彼の隣に座った。無言は肯定と取る。これが私のポリシーだ。
私は弁当の蓋を開けおかずを食べ始めた。彼はパックの苺牛乳を飲んでいる。
「苺牛乳好きなの?」
「…別に。何で?」
「いや、可愛いなあと思って」
阿部くんってコーヒー好きそうだから意外で。そこまで言ってはっとした。男の人って可愛いって言われるのが嫌いだったっけ。
恐る恐る阿部くんを見ると、彼は顔を真っ赤にして私を見ていた。
「阿部くん…?」
「え、あ、何だよ…」
「顔、真っ赤」
「う、うるせぇ!」
顔を更に真っ赤にさせて怒鳴る彼。何だか可愛くて、私は小さく笑ってしまった。彼はそれに気付いたようで私を睨む。その目にはうっすら涙が浮かんでいて全然恐くなかったけれど。(寧ろ可愛い。)
予鈴が聞こえ、私は腕時計を見て時間を確認。13時10分。授業開始5分前。もうこんな時間か、と私は急いで半分以上残っている弁当を食べ始める。弁当を残すなんて勿体ない。
「むせるぞ」
「だって授業に遅刻しちゃう。阿部くん先戻ってて良いよ」
「いや、待ってる」
ゆっくり食べろよ。彼がそう言うもんだから、私はペースを少し落とした。結局授業には二人して遅刻した。
090617
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