07. 全力ダッシュ
昨日はあんなにも雨が降っていたのに今日は晴天。雲一つなかった。
「ねえ名字、昨日阿部と一緒に帰ったんでしょ?」
「名字、阿部が好きなんだろ?良かったな」
登校するやいなや私は花井くんと水谷くんに話しかけられた。勿論内容は阿部くんの事で。何で知ってるの?と聞くと、彼らは下校途中に私たちを見かけたことを教えてくれた。
「俺たちにも詳しく聞かせてよー」
「え、阿部くん傘持ってなかっただけだし…」
曖昧に笑って答える。別にやましい気持ちがなかった訳ではないが、昨日のはただ困っている人を見捨てられなかっただけだったのだ。しかし、まあ、我ながら大胆な行動をしたもんだ。
「名字は優しいねー」
「別にそんなんじゃ、」
「いい子いい子」
水谷くんがにっこりと笑って私の頭を撫でてきた。何だか恥ずかしいなあと思いながらもされるがままにしていた。
「何やってんの?」
「へ、」
「あ、阿部だ。はよー」
「はよー」
不意に後ろから声がした。振り向けば彼が私の事を見下ろしていた。
「あ、阿部くん…!」
「ん、どうしたんだよ、そんなに驚いて」
「え、えーっと、その」
私の頭を撫でていた水谷くんの手はいつの間にか戻されている。さっきの話聞かれたかな。私が阿部くんのこと好きとか色々。そう考えると急に居たたまれなくなった。
「…おーい、大丈夫か」
「…わ、私、用事あるから!じゃあね!」
「え、ちょっ!」
捲し立てるように言い、私は教室のドアに向かって駆け出す。阿部くんの呼び止める声が聞こえたけれど無視して教室を出ていった。
七組から随分と離れた所で私は足を止めた。全力で走ってきたせいか息が上がっている。疲れた。
ああ、何で逃げてしまったんだろう。何でもないよって言えば良いだけなのに。暫くその場で悶々と悩んでいるとHRの始まりを知らせるチャイムがなった。私は来た道をまた全力で走る。この時初めて彼と隣の席ということを恨んだ。
090629
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