08. 一点リード


名字が走り去って行った方を呆然と見ていた。何で逃げるんだよ。俺何かしたっけ。いきなりすぎて反応できなかったじゃねえか。
花井と水谷を見れば、こいつらはによによしながら俺を見ていた。

「…何だよ」
「いや、別に」
「うん、何でもないよ」
「、そうかよ」

舌打ちをして溜め息。名字のあの様子は何だったんだ。

「残念だったな」
「ああ?何が」
「名字に怖がられちゃったね」
「…あ、ああ」

肩をがくりと落とすと水谷に笑われた。お前、うっぜー。水谷を睨んでいると花井に止めろと言われた。水谷はまだけらけらと笑っている。

「謝ってきたら?名字が好きなんでしょ?」
「ばっ、何言ってんだよ!」
「じゃあ好きじゃないのか?」
「あー、…好き、だけど」
「昨日一緒に帰ってたもんね」
「な、何で知ってんだよ!」
「え、だって昨日見たし」

花井がそう言うと、タイミング良く(俺にとっては悪く)チャイムがなった。こいつらに聞き出したいことはまだたくさんあったが、先生が教室に入ってきたため俺は仕方なく自分の席に戻った。あ、名字が帰ってきた。

「…おかえり」
「…ごめん、いきなり逃げて」
「いや、俺も何か、ごめん」

謝る理由が思い当たらなかったが水谷に言われた通り一応謝っておいた。すると名字はいつかと同じようにへらりと笑った。

「名字、あのさ」
「ん?」
「今日、一緒に帰らねえか?」

へ、と名字のとぼけた声。一瞬、空気が固まったように感じた。何言ってんだ、俺。恐る恐る名字を見ると、こいつはきょとんしていて、そして目が合うとまたへらりと笑った。

「阿部くんがいいなら」
「へ、まじ?」

うん、と名字が頷くのを見て俺は心の中でガッツポーズをした。


090703


ALICE+