12. ねえ、知ってる?


あれから名字さんとは喋っていない。何だか気まずかったし、彼女も彼女で俺に話しかけようとしなかった。
野球部の皆には心配されて大丈夫だとは返したけれど、実際には大丈夫じゃなくてぐらぐら不安定。


今日も彼女は教室から出ていく。
拒絶されたあの日から、俺は自分の席でその後ろ姿を見送ることしかできない。もう前みたいに話をしたり笑い合ったりできないのだろうか。そう思うと辛い。

もう部活に備えて寝ようと机に伏せた時、誰かに名前を呼ばれた気がした。顔を上げるとドアの近くにいたクラスメートが俺を見て手招きをしている。仕方なく立ち上がり近寄る。

「お前に用があるんだって」

そう言われ、そのクラスメートの隣にいた女子を見る。顔を見たことがないから多分違うクラスの女子。
その女子はここじゃ話しにくいから、と俺を人気の少ない校舎裏へ連れていった。


「あたし、栄口くんが好きなの。付き合ってください」

顔を赤らめて言う目の前の女子。
好き、て言われても俺が好きなのは名字さんで、申し訳ないけれど、どうしてもこの女子に応えることはできない。俺は当たり障りのないような返事を考える。

「ごめん、今は野球に専念したいから」

気持ちは嬉しいけどね、と付け足して極力笑みを崩さないように言う。それを聞いた女子は顔を歪めて違う、と呟いた。

「名字さん、でしょ…?」
「え?」
「名字さんが好きだから断るんでしょ?あたし、知ってるんだからっ!」

突然声を荒げてそう叫ぶ女子。俺は驚いて何も言うことができない。女子は俺の手を握ってまた叫ぶ。

「あんな人やめたほうがいいよ!あの人、自分が中学頭良い学校に通ってたからってお高くとまってるし、あたしたちのこと馬鹿にしてるっ!あの人より栄口くんに似合う人、他にいるから、あたしじゃなくても良いのっ、だからっ――」


「うるさいっ!」


この女子の言葉に苛立って、思わず怒鳴ってしまった。
女子に怒鳴るのは初めてかもしれない。目の前の女子は目を真ん丸にして驚いている。

「それって本人から聞いたの?」
「え…っ?」
「もし憶測だけで言ってたのなら、止めてよ」

思ったよりも低い声が出た。女子はひっ、とひきつった声を発したきり黙ってしまった。
握られていた手を振りほどく。

「俺だって名字さんの事全部知ってる訳じゃないよ。だけど、名字さんは君がそう思っているような人じゃない、名字さんは普通の女の子だよ」

それだけ言って、背を向けて歩き出す。
後ろで俺を呼ぶ声が聞こえたけれど無視をした。


090807


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