15. ありふれた幸せ
今、名字さんの席の回りには五人の女子がいた。昨日屋上にいた人たち。皆、ぼそぼそと喋っているため会話は聞き取れないが、表情からして昨日と同じ類の話だろう。思わずため息が出る。
彼女を助けるべきなのか、それとも彼女自身で解決するべきなのか迷っていると、不意に力のある声が聞こえた。
「私は悠くんや栄口くんと仲良くしたいから接してるだけだよ」
はっきりとした口調で言い切った彼女に、女子たちは不愉快そうな表情をして教室を去っていった。
呆然としていると彼女と目が合い、俺のほうに寄ってきた。
「栄口くんありがとう」
「へ、何が…?」
「昨日、栄口くんが言ってくれた事。おかげで勇気出たよ」
にこりと笑いかけられ、嬉しくなって俺も笑い返した。
「…名字、さん!」
突然、彼女の名前が呼ばれ声のしたほうを見ると、そこには一人の女子が立っていた。同じクラスの斎藤さんだ。彼女は驚いた表情で斎藤さんを見ていた。
「あ、あの、」
「…どうしたの?」
「私、ずっと名字さんと仲良くなりたいなって思ってたの。だ、だから、」
私と友達になってくれませんか?
しどろもどろにそう言った斎藤さんに、彼女は目を真ん丸にした後、嬉しそうに顔を綻ばせて頷いた。それをみた斎藤さんの顔もみるみる内に笑顔に変わっていく。
「名前ちゃん、て呼んでいいかな?」
「うん。私も名前で呼んでもいい?」
「もちろんだよ!」
これからは宜しくね、と斎藤さんは彼女の手を握る。彼女は顔を赤くしてはにかみながら宜しく、と言った。
彼女はすごく幸せそうに笑った。
090810
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