16. 少しずつ変わっていく


斎藤さんと仲良くなってから名字さんは変わったと思う。よく笑うようになったし、表情が豊かになった。
そんな彼女の変化にクラスメートたちは最初は驚きはしたものの、今では一緒に楽しそうに話をしていたりする。


「名字」

名前を呼ばれた名字さんは今まで一緒に喋っていた女子に一言言ってから、教室のドアの所にいる彼女を呼んだ男子に寄っていった。
見たことある顔。記憶を辿って、思い出す。あの男子は彼女の元彼だ。
俺の席は彼女たちがいる所に近いため、話し声が聞こえてくる。俺は耳を傾けた。

「どうしたの、会田くん」

名字さんはにこりと微笑んで訊ねる。それに対して会田は言葉を濁してから、深く頭を下げてごめん、と呟いた。彼女は会田のその行動に驚いたようだった。

「…何で会田くんが謝るの?」
「何で、て…名字に悪い事したから、」

意味が分からない、とでも言うような顔をしている名字さん。会田は申し訳なさそうな顔をして続ける。

「別れる何日か前に名字の中学の事聞いてさ、そん時名字は他の奴らとは何か違うって。俺さ、名字みたいに頭良くないから、俺の事どっかでばかにしてたりするのかな、って思って、何だか嫌になって、だから別れた、」
「……」
「でも少し経って思ったんだ。名字はそんな事をするような奴じゃない、て」

そう言い切ってから、会田はもう一度頭を下げた。

「本当にごめん。俺、名字の事すごく傷付けた」
「…いいよ、もう大丈夫だから」
「…もし名字がいいなら、俺に償わせて」

会田は顔を上げて名字さんを見つめる。彼女はじっと見つめ返しているだけだった。俺も思わず息を止めて彼女たちを見入る。
償う、て事はよりを戻すという事だろうか。そしたら会田の今の彼女はどうなるんだ?彼女もそれを望んでいる?俺は彼女への想いを断ち切らなければならなくなるのか?
頭の中でいくつもの疑問がぐるぐると回る。

ひたすら悶々と悩んでいると、突然、彼女は口を開いた。

「彼女は元気?」
「…へ、あ、うん」
「その子を幸せにしてあげなよ」

名字さんはそう言った。そんな彼女に会田はいいのか?と念を押すように訪ねた。彼女は頷く。

「その子は会田くんにとって大切な人なんでしょ?」
「…うん」
「だったら、幸せにしてあげて。それが私への償いでいいから」
「…分かった」

こくん、と頷く会田に名字さんは目を細めて微笑んだ。

「私、会田くんと過ごした一ヶ月、楽しかった」
「俺も楽しかったよ」
「…じゃあね」
「…うん、またな」

お幸せに。名字さんはそう呟いて、遠ざかっていく会田の背中を見つめていた。


090820


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